と、武骨な手がそっと重ねられた。

まだ何も言ってはくれないけれど、いつも通りの大きくてあたたかい感触に包まれてホッとする。

絡めてた指を緩めて掌の中に預けるとそのまま口元に寄せられて、唇が軽く触れた。



「君を不安にさせるとは・・・私は情けないな。・・・先程は嫌な思いをさせてすまなかった。許して欲しい」

「ぁ・・わたしは平気です。だから、謝らないでください」



―――わたしよりも。

アラン様の方が心配だわ。

今まで漠然と思ってはいたけれど、アルスターさんの態度を見て実感した。

世継の王子様の妃になる者が平民で、しかも異国出身なんだもの。

わたしの耳には届いてこないけれど、きっと方々からいろいろ言われてるはずだわ。

アルスターさんをはじめとするご三家の方たちはもちろん反対だろうし、国中で見れば大半の方がいい顔をしてないのかもしれない。

中には幼いころから妃になる夢を持っていたご令嬢もいるはずだし、急に現れたわたしに対して良くない感情を持つのは当然のことだわ――――



向かいの席にあるのは馬車の動きに任せて揺れる花籠。

憧れなんて、とても驚いたけれど嬉しかった。

初めて触れた国民の二つの感情。

塔の中にいては伝わってこないことがたくさんある。

わたしは、もっと外に出ていろんなことを知らなければいけないわ。

アラン様は外に出ることを許してくれないだろうけれど。



ふるふる揺れる花たちをぼんやりと見つめながら考え込んでいると、ん、これはやはり進言に従うが良さそうだな、とぼそりと呟くのが聞こえてきた。



「エミリー、こちらを向くが良い。先程の問い――――今から向かう先を知るのも大切だが。今はきちんと理解するが先だ。良いか。しっかり聞いて欲しい」



そう言って体を此方に向けたアラン様。

君はすぐに間違うゆえ、気をつけよ、と窘めるように言ったあとの唇は、ちょっぴり歪んでいた。

普段あまりお話しをしないアラン様が伝えてくれることは、忘れてはいけない大切なことばかり。

だから、いつだって真剣に聞いてるつもりだけれど。

今のこのお顔は、優しく微笑んでると言うよりも・・苦笑い、されたみたい・・・。

わたし、いつも、そんなに間違えてるかしら、と疑問に思いながらも一旦座り直してドレスを整えた。