―――いいかおり・・・とても素敵だわ。

きっと、アラン様も喜んでくれるわね―――



メイドさんたちに見送られ馬車まで戻ると、ジェフさんたちが見張りに立っていて周りに鋭い瞳を配っていた。

パトリックさんが、ご苦労様、と労いの言葉をかけるとササッと下がっていく。


馬車の扉の前に立つと、あの高いステップにまた悩まされてしまう。

じき王子妃としては、なんとか乗り越えなければいけない壁。



「さて、君を馬車に入れないといけないんだが・・・いいかい?」

「パトリックさん、わたし、自分でのぼらなければいけないと思うの」



出来うる限りの真剣な瞳と声を向けて、のびてきたパトリックさんの腕を制する。

―――今度こそ―――

アラン様は有無も言わせずに行動に出てしまうけれど、パトリックさんなら見守ってくれるはずだわ。

出掛けるたびに抱きあげられていたのでは

“この国の王子妃はこんなことも出来ないのか、まるで幼子のようだ”

なんて、思われてしまうもの。

そんなの絶対ダメだわ。

いただいた籠を御者に預けて、ドレスの裾を摘み上げて自分でのぼるやる気を見せる。

ヨタヨタとしながらもバランスをとりつつ脚を上げていると、パトリックさんがクスクスと笑いだした。

俯いて笑いをかみ殺してる様は、可笑しくてたまらないといった風情。



「やはり、君といると楽しいな。全く、アランが羨ましいよ」



―――楽しいって。

もしかしてこの状況が?

どうしてなのかしら。

わたしはとても必死で大マジメなのに―――



「パトリックさん。笑うなんて、酷いわ」


ムッとして口を尖らせてると、ぱったりと笑顔が消え、真剣な色が宿された瞳で見下ろされる。



「君は、本当に危険な女性だね―――――失礼するよ」



言葉と同時に足元に沈み込んだ体に、軽々と抱き上げられる。



「―――っ!待って、危険じゃないわ、きちんと気を付けるもの。パトリックさん。だから下ろして下さい」



無駄だと思うけれど、厚い胸板を押して抗議をしてみる。

と、案の定更にがっしりと抱えられた。




「ダメだ。君に、怪我をさせるわけにはいかないんでね―――・・・これ以上、私を困らせないでくれ」