部屋を出れば、廊下の先に数人のメイドさんたちが並んでいた。

その中の一人が、何か籠のようなものを抱えているのが見える。

「来られたわよ」なんて嬉しそうに囁き合ってるのもわかる。

頬を染めててとても可愛い、若いメイドさんたち。

あれは、パトリックさんへのプレゼントかしら。



“パトリック様は、老若問わず、すべての女性に人気抜群なんです”



興奮気味なメイの言葉を思い出す。

やっぱり人気があるのよね。

お迎えの時聞こえた囁き声も、原因はきっとパトリックさん。

なんだかホッとする。

アラン様でなくて良かった、なんて思ってしまうわたしは、心が狭いのかしら。


籠には布が被せられてて何が入ってるのか分からないけれど、とてもいい香りが漂ってくる。

それを持ったメイドさんの前に来ると、パトリックさんがピタリと止まって柔らかな微笑みを向けた。

緊張感たっぷりで引き攣った笑顔を浮かべるメイドさん。

仲間に押されて前に進み出たは良いけれど、突っ立ったまま口をパクパクさせるだけでなかなか言葉が出ない。



「いい香りがするね。それは、誰に向けられるものか、教えてくれるかい?」



パトリックさんが柔らかな口調で水を向けると、メイドさんはくるんと向きを変えた。

緊張して恥じらいながらも精一杯に作った笑顔がわたしを見つめる。



「あ・・・あの、し・・・失礼致します!!」



出された声は少し裏返ってる。

隣にいるメイドさんが、ほら落ち着いて、って声をかけながら背中を摩った。

震える指が布を摘まんで取り払うと、更に強まった香りが辺りを包み込んだ。



「これはっ、王子妃様に、で御座います。あ、あの御祝いで御座います!ご結婚、おめでとう御座います!!」



思わぬことに驚いて、差し出された籠を見つめながら固まってしまった。


―――これを、わたしに――――?


メイドさんは「まだご結婚されてないわよ!」「そうよ、ご婚約よ!」とあちこちから小声で囁かれてる。

失敗した、と思ってるのかしら、お顔は真っ赤になって瞳はどんどん潤んでいく。



「エミリー、君に、だそうだ・・・しかし、短い時間でよく準備出来たね?大変だっただろう」

「お屋敷の裏手に沢山あるんです。お好きだとうかがって、私たちみんなで急いで作りました。あの、アルスター様には内緒なんですけど・・・」

「大丈夫だ、決して言わないよ」



パトリックさんの柔らかな態度にメイドさんたちの口も軽やかになる。

唇を歪め声も出せなくなってしまったメイドさんに変わって隣の子が言えば、後ろにいる子も口を挟んだ。