「いや、アルスター。先程から申しておるが、決して誤解してはならぬ。モーガン嬢は、国の重鎮であるそなたに挨拶を、と希望した。それに、今宵は兵士長官に彼女の護衛を任じておる。本日の案件には関係無い」


「ほう・・・護衛で御座いますか。ラムスター様自らとは――――ふむ・・・もしや何か物騒な事件でも起こりましたか。私の元には何の情報も入っておりませんが――――」



口髭を弄りながら眉を寄せて考え込むアルスターさん。

伏せられてる瞳からは、民を思いやってるような気配が見える。



「・・・案ずるな、アルスター。何も起こっておらぬ。彼女は王国にとって大切な者ゆえ・・・。警備には常に万全を期すよう手配しておる。今宵は少人数での移動ゆえ、彼以外に適任者はおらぬと判断した」


「左様で御座いますか。王家ではなく、国―――――うむ・・・確かにそうですな。先程からの王子様の御様子を拝見するにつけ、非常に貴重なお方だと、存じ上げます。このようなこと、他のお方では到底無理で御座いましょう。ましてや、イライザなどでは、当然太刀打ち出来ますまい」

「黙るが良い、アルスター。その話は先の機会に済んでおるはずだ」



ぶ厚い金属をもい抜いてしまいそうな強い光を放つアルスターさんの瞳。

アラン様から移動したそれがわたしに定められると、ほんのちょっぴり柔らかになった。

何か会話を交わせそうな雰囲気を持ってる。


こんなときは、話題を振った方がいいと冊子に書いてあったわ。

さっきから何度かお名前が出ているイライザさん。

どなたなのですか、とお訊ねしても構わないのかしら。

などと考えてると、腰にある手がだんだん強まってきてギリギリとしめられた。

ちょっぴり痛みを感じたので見上げると、視線はアルスターさんからわたしに移動していて・・・。


・・・どうしてそんな怖いお顔をしているの??



凛々しい眉は寄せられていてブルーの瞳は射るような光を放ってる。

訳が分からなくて見つめていたら、いつにない低い声で命じられた。



「エミリー・・・兵士長官とともに馬車に戻っておれ。長官――――」


「了解した。・・・・モーガン嬢、さぁ、こちらへ―――」



きつく締められていた腕の中から解放され、優しく背中を押されたのでパトリックさんの元へと移動する。



「・・・アルスター様、失礼致します」



微笑んで丁寧に挨拶をすれば、瞳の厳しさが薄らいでいた。

最初の印象よりもずっと和やかになった表情が瞳に映る。

根は優しいお方なのに違いない。


「モーガン様、今宵は生憎と不在で御座いますが、婚儀には私の妻も参列致します。今宵貴女様にお会いしたことを話せば、貴方一人ずるいとぼやかれることでしょう。・・・それに、私のむす」

「―――っと。さぁ、アルスター殿はお忙しい。早く失礼しよう」



間を別つように、急に割って入った優しい腕に驚きつつもそっと掴まって、失礼のないようアルスターさんに目礼して誘導に従った。