「これはまた・・・珍しい事で御座いますな。今宵は国王様の使いで御出で下さると使者に伺っておりました。お忙しいお二人がご一緒とは、随分難しい案件をお持ちと推察致します」



パトリックさんに向けられてる表情は、にこにこなんて表現には程遠いもの。

口角は上がってるけれども、細められた瞳はまったく笑っていない。



「にもかかわらず・・・。王子様、政務の仕方も随分変わられましたな。これは、斬新にも、異国風を取り入れられたと考えるべきですか」



目線はわたしの頭の上を通って、隣にいるアラン様に向けられた。

恐れる風もなく威厳あるブルーの瞳にひたと照準を合わせる。

厳しい視線は怯むことなくアラン様に注ぎ、皮肉とも聞こえるお話の仕方をする。

ご三家は王家に対しても強い立場を取れる家柄で、政治にも影響力を持ってると聞いた。

アラン様も扱いに気遣いをみせる方たち。



この方は、わたしが一緒にいるから怒ってる。

教育の時に聞いたもの。

この国では、政治に女性は立ち入ってはいけないと考えるのが一般的だって。

伝統あるご三家のお方ですもの、当然アルスターさんもそんな考えをお持ちなのであって・・・。


“馬車で待たせるつもりが”


・・・アラン様のお立場がこれ以上悪くならないうちに、わたしは早く退室しないと―――



意を決して、声をかけようと息を吸い込みつつアラン様を見上げる。

と、素早く動いた腕が身体にまわって腰をくぃっと引き寄せられた。

少し開いていた二人の間は一気に縮まる。

普段より高いヒール。

こんな威圧的な雰囲気に慣れてない緊張感。

おまけに不意打ちなことも相俟って、準備の出来てなかった身体は簡単によろめく。

声が出そうになったのを必死に飲み込んで、わたわたとバランスを取っていると更にがっしりと引き寄せられた。

大きな手でしっかり軽々と支えられて転ぶことは免れたけれど、話し掛ける機会をすっかり奪われてしまった。

ばたばたしてる間にも頭の上では会話が続けられてる。

同じ部屋の中なのに、わたしだけ違う空間にいるみたい。



でも・・・どうしたらいいのかしら。

このままここに居るわけにはいかないもの。

わたわたまごまごしているうちに、話しはどんどん進んでそのうち政治のお話が始まってしまうわ。

そっと抜け出してパトリックさんに助けを求めようにも、アラン様の腕はとても力強くて少しの抵抗では離してくれそうにない。

かといって、声を掛けられる雰囲気でもない・・・。



少し冷徹にも思えるアルスターさんの声に対し、いつもと同じ声色のアラン様。

見上げれば横顔は普段通りでちっとも動じていない。