通された部屋はとても広い応接間。

凝った意匠の暖炉に汚れ一つないふかふかの絨毯、それに革張りの豪華なソファセット。

カーテンからクッションまで全体的に渋いえんじ色でまとめられたインテリアは、玄関の雰囲気とは打って変わり、訪れる人の気持ちを落ち着かせてくれるものだ。




「只今主人を御呼び致します。少々お待ち願います」


執事さんは強張った笑顔をこちらに向け、頭を下げていそいそと出ていく。



「エミリー、すまぬ」

「え?」


さっきの執事さんとの出来事を謝ろうと思って見上げると、アラン様の方が先に口を開いていた。

視線は部屋の入口に向けられたまま。



「馬車で待たせるつもりが、つい一緒に降ろしてしまった」

「そう・・なのですか・・・?」

「全くだ。アラン、君らしくもない失敗だよ。私にしてみれば、ここ最近で一二を争う程の動揺事項だ」


パトリックさんがやれやれと肩をすくめる。



―――そういえば。

馬車から降ろしてもらうとき、アラン様の腕が一瞬止まったっけ。

アラン様もうっかりすることがあるのね―――?



「・・・君はここに。すぐに済ませるゆえ」


ソファの前に誘導されたのでマントを脱ごうとしたら、すぐに済むゆえそのままで良い、と遮られた。

「エミリー、心配しなくても、いつも通りの君でいればいい。アラン、すぐにお出でになるぞ」



パトリックさんが優雅に歩いてソファの後ろ側に立ったと同時に、ノックされた扉が開いた。



「お待たせ致しました」


お部屋に来たのは、几帳面そうなお顔だちの年輩の紳士。

多分、パパと同じくらいの年齢。

ぴっちりと撫で上げられた髪。

口髭があって、細められた瞳は厳しい色を宿してる。

第一印象は、怖いお方。



「夜分失礼致す」

「まさかご婦人を同伴されるとは―――王子様らしく御座いませんな?」



抑揚のない冷たく感じる声。

堂々としてて、アラン様が相手でも全く動じない。



「此方は私の婚約者だ。・・・エミリー、アルスター殿だ。我が国の御三家のお一人で南の地を任じておる」



「アレイク・アルスターと申します。いつぞやのパーティではご挨拶申し上げず、大変失礼を致しました」

「エミリー・モーガンと申します。よろしくお願いいたします」



お互いに作法通りに挨拶をすると、値踏みするような瞳が向けられる。



「成程・・・作法は一通り出来るようですな―――しかし、お連れ下さると分かっておればイライザをとどめておきましたものを」

「急な用向きで参ったゆえ」

「左様で御座いますか」


素っ気ない返事をしたアルスターさんの厳しい瞳が移動して、後ろにいるパトリックさんを見つけた。

薄めの唇がくぃっと歪む。