喜びと好奇心の混じった笑顔が一歩近づいた。


「こんば―――・・・」

挨拶の言葉は、目の前に出てきた大きな手によって遮られた。

隣を見上げると、視線はこちらではなくて執事さんの方に向けられている。


「執事殿、分をわきまたまえ」


背後から響くパトリックさんの凛とした声。

執事さんのにこにこ笑顔が一瞬にして強張った。


「申し訳御座いません。アラン王子様。大変はしたない真似を致し失礼しました」

「・・・国王の使いで参った。氏は在宅か」

「はい。勿論お待ち申し上げております」




執事さんの先導に従って歩いて行く。

とても立派なお屋敷。

豪華さはないけれどすっきり整えられた庭。

落ち葉ひとつなく履き清められた玄関まわり。

扉の上部には、ぴかぴかに磨かれた金属製の紋章が嵌められ、それが玄関灯で浮かび上がってて何とも言えない威厳を放ってる。

他を寄せ付けない雰囲気、一分も隙のない佇まい。

相当な御身分のお方のお屋敷のよう。


“難しい話をする”


―――国王様の使いって、きっと政治的なお話のはず。

わたしの分からないこと。

立ち入ってはいけない領域。

パトリックさんは良いけれども、わたしが一緒にいても構わないのかしら―――


アラン様を見上げながら腕に掴まる手に力を入れると、重ねられた手でぽんぽんと叩かれた。

返事の代わり。「構わぬ、大丈夫だ」と言ってるかのよう。


馬車から降りてからのアラン様は決してこちらを見ない。

真っ直ぐに前を向いたまま。

けれど、あたたかい掌からは気遣う気持ちがじんわりと伝わってくる。

さりげなく向けられる優しさ。

そんなアラン様の隣にいられるのが、とてもうれしい。



威厳を放つ重厚な扉が開かれれば、品良く飾られた可憐な黄色い花が目に映る。

壁に掛けられた1枚の大きな風景画。

真っ白に磨かれた白い壁。

広いけれど色の少ないシンプルな玄関ホールは、清潔なんだけれどとても冷たい感じがした。



執事さんが「どうぞ此方へ」と案内して下さるその先の広い廊下には、この屋敷に仕えてる使用人全員いるのか、と思うほどの人数が頭を下げて居並んでいた。

緊張しながらも楚々と通りすぎると、メイドたちの漏らす熱いため息と嬉しげに囁きあう声が追いかけるように聞こえてきた。

「なんですか、はしたない」なんて叱責する声も微かに耳に届く。



「大変騒がしくて申し訳御座ません。皆初めてお目にかかれましたので興奮しているようで御座います。――――さぁどうぞ此方へ」