隣を見上げると、普段通りのお顔でまっすぐ前を向いてる。

感情の見えにくい涼しげな横顔。

冷たくて怖いと言う人が多いけれど、わたしはそう思わない。

確かに叱るお顔は怖いけれど、アラン様はいつだって優しいもの。



じっと見つめていると、額に唇が降ってきた。

キスしても何しても、悔しいくらいに表情は変わらない。

ブルーの瞳が優しげな色に変わるだけ。

ドキドキしてるのは、いつだってわたしだけ―――



「・・・尋ねごとか?何でも申せ」

「ぁ・・・いつも・・・あんな風なのですか?」


「見送りのことか―――今日は特別だ。君が一緒と聞き付けた皆が是非と声をあげあの様になった。緊張したか?」

「はい。とても・・・知らないお方もみえましたもの」

「じきに慣れる・・・・・先に父君の用を済ませねばならぬ。難しい話をするが、すぐに済む。私の個人的な用はその後だ」



今なら聞けるかも、と思って何度か問いかけてみるけれど、「着いてから話す」と言われてしまって、それ以上何も聞けなくなった。


馬車は城門を潜って南に下っていく。

連なる商店の灯りや民家の灯り。

道行く人たちが紋章付きの馬車を見て急いで居住まいを正して頭を下げてる。

とても明るい城下の家並み。

大きなお屋敷の前を通るときに、何処までも続く長い塀にシルヴァのお屋敷のことを思い出して胸が痛んだ。



「ん・・・エミリー、どうした?」


暗く沈んだのがわかったのか、重ねられてるアラン様の手に力が入った。


「何でもないです」


「遠出だ。馬車酔いすることもある。気分が優れぬならすぐに申せ・・・良いな?」



外の景色は次第に家がまばらになってきて、森や草原が続いている。


どこまで行くのかしら。

毎晩こんなに遠くまで来てるなんて、お帰りが遅いはずだわ。



暫くすると、草原だった風景にまばらに家が見え始め、じきに家並みに変わった。

馬車のスピードが緩まって、一旦止まったあと再びゆるゆると進み始める。

止まったのは、大きなお屋敷の玄関前。

馬車から降りると、初老の紳士が満面の笑顔で出迎えてくれた。



「ようこそおいで下さいました。・・・おやおやおやまぁまぁ、これはこれは・・・」