政務塔の前にずらりと居並ぶ城の人たち。

難しい表情した立派な身なりの見知らぬお方もちらほらみえる。

その仰々しさに、なんだか本格的な公務に思えてきて緊張感がさらに増していく。


玄関前の広場にはすでに馬車が準備されてて、澄ました顔の御者が扉の横に立っていた。


ぴかぴかに磨かれて手入れの行き届いた車体。

嵌め込まれたアラン様の紋章が月明かりに照らされてキラリと煌く。


後ろには馬が四頭いて、団の正装をしたジェフさんが三人の兵士たちと一緒に控えていた。

その背後に、もうひとつ黒塗りのシンプルな馬車が用意されてる。



・・・あれは誰のものかしら・・・。




「兵士長官パトリック・ラムスター、お供致します」



脇から進み出てきたパトリックさんが優雅に挨拶をして微笑む。

モスグリーンの三つ揃えを着てて、いつもに増して立派に見える。



「パトリックさんもご一緒していただけるのですか?」

「あぁ、君の護衛を任ぜられ光栄だよ、エミリー」



ご令嬢たちを虜にする蕩けるような甘い微笑み。

差し出された手の上に遠慮がちにも指先を乗せると、作法通りに忠誠のキスが落とされた。



「今日の君は一段と美しい」


まっすぐに向けられる、変わらないアラン様と同じブルーの瞳。

いつもと同じ優しい声と眼差しで、緊張感が少しだけ和らいだ。



「ありがとう、パトリックさん」


「・・・・パトリック、私は任じた覚えはないが」

「アラン、悪いな。私の人事だ」



低い声で苦情を言うアラン様。

それをパトリックさんは軽く受け流して、難しいお顔をしたアラン様を「急いだ方がいい」と言って馬車へと促した。





感慨深く車体を眺める。


―――これに乗るのは二度目ね・・・。

あの時は、アラン様が抱えて乗せてくれたんだっけ―――



「エミリー・・・ステップが高いゆえ、気を付けよ」

「はい。ありがとうございます・・・」