メイが、いい仕事をしたとばかりに大きく息を吐いて、どうぞ、と手鏡を渡してくれた。

あわせ鏡で慎重にチェックする。


少し露出のあるドレス。

確認するのは後ろ姿もだけれど、昨夜、ちくんとした刺激があった部分。

あれは、確か肩のあたりだったっけ・・・。

腕を上げたり下げたりして確認する。



―――もしも見えたりしたら大変。

アラン様ったら、何回もするんだもの・・・

分かってるとは思うけれど―――



何度も確認してると、思い違いをした様子のメイが満面の笑顔を向けてきた。


「エミリー様。大丈夫ですわ、とてもお綺麗です。何処からどう見ても立派な貴婦人ですわ。あ、・・・そろそろアラン様がお迎えに来られます。さぁ、鏡を此方に―――きっと満足して頂けますよ」

「・・・ありがとう。メイ」


ナミが急ぎ足で歩いて扉の横に立ったとほぼ同時に、ノック音が響いた。

緊張感たっぷりな表情でそのまま指示を待っているので、いいわよ、と微笑んで頷いて見せた。



「アラン様、どうぞお入り下さいませ―――」

「―――ご苦労」


扉を開けて頭を下げるナミに、労いの言葉をかけるアラン様。

きちんとした三つ揃え、色は濃灰色だけれど正装に近い服装をしてる。

腕には、可愛いクリーム色の布を提げてるけれど、あれは何かしら―――?



ついに出掛ける時が来た。

期待と不安が入り混じった複雑な感情が胸を支配する。

おまけにアラン様が素敵すぎて違う意味でもドキドキして、心臓が壊れてしまいそうになる。



「アラン様、お迎えありがとう御座います」


正面に立ったアラン様に対し、膝を折って作法通りに挨拶する。

と、ブルーの瞳に柔らかな色が宿った。

頬に手が伸びてきて、指先でそっと触れてくる。



「エミリー、そのように緊張しなくとも良い。公用とはいえ個人的なことだ。気楽なものゆえ」

「でも、初めてなんですもの。やっぱり緊張してしまいます。それに・・・何処に行くのかも分からないんですもの」



ちっとも教えてくれなかったアラン様。

ちょっぴり恨めしい気持ちを込めて見上げると、表情が崩れてフッと笑った。



「その様な顔をするとは――――・・・大丈夫だ。君は普段通りにしておれば良い。それで十分ゆえ―――」

「―――はい」


アラン様は無言のままじっと見つめてくる。

綺麗とも何とも言ってくれないので、この装いが、いいのか、ダメなのか、いまいち分からない。


「・・・アラン様?」


尋ねようと思って首を傾げつつ見上げると、急に腰が引き寄せられたのでよろめいて胸に手をついてしまった。

いつもよりも早い鼓動が伝わってくる。


「・・・今は――――」


頭の上から二度、リップ音が降ってくる。

そのあと髪に顔を埋めてる雰囲気が伝わってくる。

吐息がかかる部分が、とても熱い・・・。



「――――これだけにしておく・・・」


そっと体を離され、腕に提げられていたクリーム色の布をすっぽりと被せられた。

腰のあたりまで覆われてとても温かい。

フード付きの可愛らしいポンチョ型のマント。


―――もしかして、用意してくれたの?



「外は冷える・・・では、参るぞ」


出された腕にそっと手を乗せると、ゆっくりと歩き始めた。