“個人的なことではあるが、城下へは王子として出かけておる。君は、もうすぐ私の妃となる身だ。そのつもりで身支度を整えて欲しい―――――良いな?18時に迎えに行く”



朝食の後に言われたことを反芻しながらメイの顔を見る。


「・・・えっと―――個人的なことだけれど、王子様として、というのはつまり―――」

「公用でお出掛けになるということですね。承知しました」



首を傾げつつ、メイに意見を求めるとすぐさま答えを返してナミに指示を飛ばし始めた。



教育では、パーティとか他国への訪問に対する作法は教えてもらったけれど、今夜のような曖昧なことに対しては何も教えられていない。

この国のご令嬢や他国の姫君なら幾度も経験していそうなことだけに、講義内容から省かれてるのだろうと思う。

けれど、わたしはただの平民で、しかも塔の外にさえ滅多に出ることがない。

世間知らずに育てられた、どこかの国の深層の姫君みたいになってしまってる。


だから、もう一度何処に行くのか尋ねたのに

“秘密だと、申しただろう?”

なんて、いたずらっこく言うだけでまったく教えてくれなかった。

アラン様ったら、けっこういじわるだわ・・・。




『アラン様とお出かけする』


一緒にいられるなんて初めてで、それだけで嬉しくて舞い上がっていたけれど、一夜明けて時が経つと共に実感が湧いてきて、同時に現実が重くのし掛かってきた。


―――世継ぎの王子様―――

それは、十分に分かっていたこと。

けれど、こういうことがあって改めて気付かされてしまう。

普通とは違う“妃”という名の重み。

立ち居振る舞い一つで、アラン様やギディオン王国の名を汚すことも有り得てしまう立場。

着ていくものから心構えまで、きちんと気を配っておかなければ恥をかいてしまうことにもなりかねない。


月祭りの前に出席したパーティのことが蘇ってくる。

あの時は婚約者ではなかったけれど、並いる貴族方に注目を浴びてしまって脚が震えた。

これから行くところを想像するだけで、緊張感が増してくる。


どんなお方にお会いするのか分からないもの。

昨日、困ったお顔で“良いところではない”って言ってたし。

相手方はラッセルさんみたいなお方じゃないといいけれど・・・。


『このような時は』

なんてタイトルの冊子を思い浮かべて、対処法を復習する。



こうしてる間にも、メイはテキパキと準備を進めていた。

二人で忙しなく動き回って出してきたのは、白地を基調に淡いラベンダー色のレース生地がふんわりと施された割合シンプルなデザインのドレス。

それに合わせたアメジストのアクセサリーひと揃え。



「お話を伺います限り、ダンスパーティではないようですので、このドレスが最適と思われます」


袖を通してみると、ドレスの裾もあまり広がりがなくて上品な雰囲気。

これならどんな場所にも合いそう。

ナミと二人がかりで身支度が整えられて、鏡に映る普段のわたしが、徐々に妃らしい品の良い姿に変わっていった。


髪も綺麗に纏めてもらって、アメジストのアクセサリーが着けられる。