「そうか。そうだな・・・君に心配掛けてしまうな。だが、私は普段から鍛えておるゆえ、体力はある。少々のことは平気だ。君は気にせずとも良い。・・・もう遅い。君は眠らねばな」


先程は起こしてすまなかった、と言って髪を撫でてくれる。


・・教えてくれないの?・・・これだと、結局分からないわ。

わたしに言えないお方と会ってるように勘繰ってしまう。

ちょっぴり聞き難いけれど・・・。




「あの・・・その人は、女の方なの・・ですか?」


口に出した自分の言葉に驚いて、ドキドキする。

聞いてしまった・・・。

ブルーの瞳は見開いたままでじっとしてる。

掌は髪から離されてるし、何も言ってくれない。


手をぎゅっと握りしめる。


―――言えないの?・・・やっぱり、図星なの?


だんだんそのお顔が霞んできた。



「毎晩、その方に会ってるのでしょう?」


声まで潤み始め、冷静に問い詰めるはずだったのに感情が溢れてしまってどうにも止まらない。


―――寂しくて、どうしようもなく不安で

もっと傍に居て欲しいのに

それなのに―――



「聞いたの・・・本当のことを教えて下さい」

「君は、何を、申しておる?」

「体から、香水の香りがするって聞いたわ。それに、普段と違う様子が目安だって教えてくれたの。アラン様は今朝様子が違っていたし。信じたいけれど、そうなのかもって思ってしまって。不安なの・・・見過ごすのが淑女なのに、それが出来なくて。わたし・・・あの」



何を言ってるのか、自分でも分からなくなってきた。

ブルーの瞳は同じ色のまま見下ろしてくる。

何の変化もなくて、冷静なまま。

わたしだけ、一人で騒いで泣いて怒ってる。

大きな手がゆっくりと下りてきて目の前に迫ってくるのが見えるけど、一旦溢れ出た想いは簡単にはおさまりそうもない。


「わたしに内緒で・・・女の方と・・・ひどいわ」

「もう、良い。分かったゆえ」

「わかってな―――」


大きな掌が溢れた涙を拭って、ぐぃっと引き寄せられた。


「――――私は・・・少しは、自惚れても良いのだな?」

「え・・・」


「君がそのように感情を露にするとは、滅多にないことだ―――先程、警備兵に聞いた。今日は元気がなかったと。何が原因かと思っていたが――――」



背中に当てられてる手がぐるっと回り込んで抱き起こされた。

向かい合った身体は、筋肉質な太腿の間に入れられて、腰がずりずりと引き寄せられる。

怖いお顔がぐっと近づいて、額に唇を落とした。



「―――こんなこととは、な。嬉しいが、やはり少々複雑だな・・・」

「え・・・嬉しい・・の?」

「全く、君は・・・この期に及んでまだ分からぬとは」

「は・・ぃ?」

「誰に聞いたのか分からぬが、まこと困ったもの・・・っ、―――そうか、君は――――・・・」



どうしてなのか分からないけど、怖いお顔がどんどん和らいでいく。

俯いて、そうか、これが母君の懸念か。と呟いて、なんだか一人で納得してる。

口元に手を当てて暫くそのままでいたけれど、ぱっと顔を上げて微笑んだ。



「そう、だな・・丁度良いか。明日は、一緒に参るぞ」