大きな掌がおりてきて、そっと額に触れて、そのまま髪を撫でられる。

あたたかい手の感触に、心にぽわんと灯りがともって、身体がとろ~っと蕩けていく。

心地いいアラン様の魔法の手。

ぽやぁんと、無になっていく意識を叱咤して、頑張って引き起こした。

―――聞きたいことが、たくさんある―――



「アラン様?背中・・内緒でこっそり、何をしていたのですか?」

「今か?・・・印だ。・・・コレは、私の、最大限の譲歩―――」


武骨な指が背中をツーと撫でる。


「本当は、もっと付けたいのだが・・・?」

「・・ゃっ・・ダメです」


耳の傍で囁かれてそのまま唇が耳朶を挟んだ。

ぴくっと反応する身体を、なんとか抑え込む。




・・・まだ、ダメ。

まだ、何も聞いてないもの。

しっかりしないと・・・。



アラン様の指は、リリアさんが教えてくれた場所のあたりを繋いでいて、あのとき言ってたことが蘇る。

“・・・ここまでだ、ですわ”

もしかして、また同じ場所につけたの?それとも、増やしたの?


「あの・・・印は」

「・・・心配せずとも、増やしてはおらぬ。重ねただけだ。コレは、婚儀までは消さぬゆえ」

「―――え?」


婚儀までって。どうして??

コレは、リリアさんたちへのメッセージなのでしょう?



「構わぬであろう?私しか見ぬゆえ」



何を考えてるのか分からなくてじっと見つめていると、薄明かりに当たったブルーの瞳が、キラッと光った。


「ところで―――君は、今日何を・・・」



―――っ、大変!いけないわ。

もう警備兵さんに聞いたのかも。

あのことを尋ねられそうで、わたわたとする。

そういえば“先手必勝”だった。

パパ、おねがい、わたしに力を貸して―――



「・・ぁあの、アラン様!?」



慌てて出した大きな声に、怯んだみたい。

言葉を続けようと、開いていた唇がぴっと閉じた。

耳の下辺りをするすると撫で続けていた指先も止まって、逞しい体がぴくっと後ろに引いた。

その反応に驚いてちょっぴり嬉しくもあって、噴き出してしまう。



・・・わたしでも、アラン様を脅かすことができるのね・・・?



「エミリー?・・・何を、笑っておる」


少しだけ不機嫌そうな声。


「ごめんなさい。だって、あんまり可笑しいんですもの。・・・怒りましたか?」

「―――いや、笑うのが君ならば良い。平気だ」




やっぱり優しい。

いつもの、アラン様。

今朝様子がおかしかったのが、嘘みたい。

今なら聞けるかも。




「・・・アラン様。少し、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」