あり得ないことと思うけれど。


信じなくちゃと思うけれど。



あの言葉、詳しい意味は教えてくれなかったけれど、リリアさんが怒るくらいのことだもの。


あれしか、ないわよね・・・。

確かめないと。



「エミリー様?どうかしたのですか?」


いけないわ、また心配させてしまう。

早くお部屋に戻るように、促さなくちゃ。



「なんでもないわ。ありがとう、メイ。ちゃんとベッドで眠るから大丈夫よ。おやすみなさい」

「はい。では、エミリー様、今夜はこれで失礼します。おやすみなさい」



開けた扉の向こうに、人影が二つくらい見える。


『おい、メイ。エミリー様の様子はどうだ?』

メイが廊下に出るとすぐに、夜勤の警備兵の声が聞こえてきた。

『やだわ、あなたたち。もしかして待ってたの?大丈夫よ―――・・・』

そう答え始めるのと同時に、パタン・・と扉が閉まった。



・・・ダメね、皆に心配掛けてしまってるわ。

これだと、アラン様のお耳にもすぐに届けられてしまいそう。

きっと、問い詰められるわね。

なんて答えようかしら・・・。

体調が悪いと言えば、有無も聞かずにフランクさんを呼ばれてしまうし。

かといって、正直に“寂しい”と言えば困らせてしまうわ。

ん~・・とか、う〜・・、とか声を出して考え込んでいたら、ある言葉が頭の中に浮かんだ。



――――先手必勝――――


学者のパパの、座右の銘。

日系の学者さんと知り合った時に教えてもらったらしくて。


“良い言葉だろう?勝とうと思ったら、先を制することだ。つまり、誰よりも早く、だ”


口癖のように言ってたっけ。


・・・・相手よりも早く、か・・・

パパ。そうすれば、わたしも、アラン様に勝てるかしら・・・・?



頭の隅にある、無理よ、なんて言葉をなんとか追い出して、先に問い詰めるべくあれこれと策を巡らせる。

明日の朝だと、問い詰める前に唇を塞がれてしまって

“昨日、元気がなかったと聞いたが”

なんて、質問が始まってしまうわ。

で、ぼんやりとしたまま答えさせられる羽目になる。

だから、やっぱり今夜でないと。

アラン様が戻るのは何時になるか分からないけれど、頑張って起きて待ってないといけないわ。

メイの課題の答えも探さないといけないし。

きっと、起きていられるはず―――



と、頑張りが続いたのは時計の針が零時を指す頃まで。

ソファのひじ掛けから細い腕がくたっとこぼれ落ち、背もたれに預けた身体はずりずりと倒れていく。

瞼はしっかりと閉じられ、くったりと横たわる身体からは、規則正しい寝息がたてられ始めた。


うとうとと、夢の中に誘われてく―――