そのあと、『誰と誰がカップルになった』とか、『フランクさんの助手に恋文が届いたらしい』とか、城内の色んな噂話をしてくれた。

面白可笑しく話してくれるのでとても楽しくて、時が経つのも忘れてしまう。



―――りーん・・・りーん・・・―――



壁に掛けられた花模様の時計から時を告げる音が聞こえてくる。


「あ~、もうこんな時間なんですね。そろそろ戻らないと。・・・エミリー様、課題、忘れないで下さいよ?」



人差し指を立ててウィンクするメイ。

その笑顔がいたずらぽく見えて思わず苦笑する。



「分かってるわ。明日のこの時間ね?」


そうですよぉ、アラン様を、しっかり観察して下さい、と言いながら、メイはテーブルの上のカップをトレイに移す。

そのあとカーテンを閉めて壁の灯りを落として廻る。

それを横目で見ながら、窓際のソファへと移動した。

メイはいつも、この場所だけは灯りは点したままにしておいてくれる。

だから、アラン様がお部屋に戻ってくるまでの間は、大抵ここで本を読んで過ごしているのだ。

メイは、わたしがソファに座ったのを見て、クローゼットの中から厚めのショールを取りだしてきた。

これも、毎日のこと。でも今夜は“一言”がついてきた。



「エミリー様、アラン様から言付けを頂いてますよ。“ソファで眠らないように”って。毎晩アラン様をお待ちしてるのでしょう?ダメですよ、ちゃんとベッドで眠らないと。お身体を悪くしてしまいます」



空色の瞳に窘める色が乗せられる。

メイに、ママの顔が重なる。



「そうよね。ごめんなさい、気をつけるわ」


「特に、今は毎晩城下に行かれてるのですから、お帰りは何時になるか分からないでしょう?時間を決めて、ベッドに移るようにして下さいね」


「・・・アラン様は、毎晩お出掛けになってるの?」


「はい。今の時間、お城にはいらっしゃいませんよ。聞いてませんか?“近くに居れぬゆえ”と、とても心配してらっしゃいました。・・・さぁ、これを肩に掛けて下さい」


ほんの少しの時間傍から離れるだけなのに・・と意味ありげに呟いてるメイの声は、聞こえて来ない。



―――やっぱり、ジェシーさんの言う通りなの?

毎晩お出掛けしてること、言ってくれないなんて・・・―――



心の中がもやもやとする。


確かに、今朝の態度はおかしかったもの。


まさかとは思うけれど。