その顔はもう、楽しげなものに変わっている。

不思議ね。今日のメイの表情は、コロコロと変わる。



「それでですねぇ、最近の侍女長のことなんですけど。とても面白いんですよぉ。毎日同じことを仰るんです」


花柄のカップを引き寄せて、お茶を注ぎ始めた。

よほど面白いことなのか、話す前からクスクスと笑っている。



「休憩時間のことなんですけどね。お茶を啜りながら仰るんです。それはもうしみじみと。“お相手がエミリー様で、本当に良かったわ~”って。今日なんて、ため息まで加わりましたよ?」


まるで、おばあちゃんみたいでしょ?と言ってまた笑っている。


「侍女長さんが、ため息を吐くの?」

「はい、そうなんです。こう、ずずずぅっとお茶を啜っては、はぁ~って息を吐くんです」




―――侍女長さんといえば、皇后さま付きのお方。

アラン様が生まれるずぅっと前から、お城勤めをなさってるって聞いたわ。

子供の頃のアラン様を知ってるお方だから、一度お話ししたいとも思ってる。

そのお方が、しみじみと・・・

おばあちゃんみたいに?


考え込んでいると、ぱんぱん・・・ぱんぱん・・と音が聞こえてきた。



「ね、エミリー様。聞いてますかぁ?」


働き者のてのひらがぱしぱしとテーブルを叩き、上目遣いの空色の瞳は、俯きがちな顔を下から覗き込んでいた。



「ごめんなさい、ちゃんと聞いてるわ――――・・・何だったかしら」

「えーっと、ですねぇ・・・。お尋ねしてたんです。それが何故だか分かりますか?って。―――ちなみに私もそうですが、城中の皆がそう思ってますよ?って」



理由―――なんて。

アラン様の心の中でさえよく分からないのに、侍女長さんの心の中なんてもっと分からないわ。

今日のお喋りの流れから考えてみると、アラン様に関することみたいだけれど・・・。



「えっと―――・・・メイ?」


教えて?という思いを込めて、空色の瞳をじっと見つめる。

満面の笑顔が苦笑いに変わった。


「やっぱり、分かりませんかぁ――――でも。こればかりは、答えは教えませんよ?ご自分で考えて下さい。明日までの課題です・・・は~い、お口開けて下さい。エミリー様、まだ一つも食べていないでしょう?」



メイはハートのお菓子を口の中に入れてくれて、どうですかぁ。これ、抜群に美味しいでしょう?と、にっこりと笑った。