お皿に乗ってるのは、ピンク色の小さなお菓子。

ハート形をしていて、とても可愛らしいもの。

何を考えているのか、メイはお菓子を摘まんだまま、一人でクスクスと笑ってる。



「でも、メイ。いまさら文句なんて言えないわよ?」



甘えるのならしてみてもいいけど、文句は言えないわ。

だって、日取りを決める会議の前に、アラン様は一応聞いてくれたもの。



“すまぬが、私の考える通りにしたい・・・良いか、私に任せてくれるか?私の我儘を聞いてくれるか?”


って。何度も尋ねてくれた。

これでも最大限の譲歩をしておる、とも言ってたわ。

だから普通より少し早めくらいに思ってて、急ぎ過ぎだなんて、ちっとも思っていなかった。



「そうですかぁ、残念です。困ったアラン様を見られるいい機会ですのに」



滅多に見られるものじゃないでしょう?とフフフと声を立てて笑った。

釣られて一緒に笑ってしまう。


確かに、滅多に見られないもの。

わたしの機嫌を取るアラン様―――・・・

辛そうなところはよく見るけれど。

困ったお顔、ちょっぴり見てみたいかも。



「急ぐのは・・・早く自分のものにしたいからなのでしょうね。そう考えると、アラン様って、結構独占欲が強いお方なんですよね?他の男性に会わせないところとか、塔から出さないところとか・・・。意外な一面ですよ?あのアラン様が――って。もちろん、エミリー様にしか発揮しないでしょうけど」



知らないのはエミリー様だけです、と呟いたメイの一言は、耳に届いてこない。



―――そうなの?

・・・あれって、独占欲っていうのかしら―――



“全く、君は・・・これでは目が離せぬな・・・”



お話ししていると、眉が寄せられていって、最後にはこう言われる。

まるで、口癖のように。

たまに脅されることもあるけれど、わたしには心配性なだけに思えるわ。

他人からみれば、違うように思えるものなのね。


「メイ、それは違うと思うわ。他の方に会わせないのも、普段塔から出さないのも、わたしがシェラザード様の力を持ってるからよ。それに、たまに変なことをしてしまうし・・・。へまをしないか心配なんだと思うわ」



それに、故郷に帰ってしまわないだろうか、とか考えてしまって不安なのだと思う。


「・・・エミリー様ったら。またそんなこと仰って―――違いますよ?いいですか?」


ハートのお菓子を2個ほど口の中に入れて、ゆっくり飲み込んだ後、てのひらをテーブルにパンと置いた。


「だいたいですね、ご婚約する前から正室のお部屋に女性を入れてしまうなんて、前代未聞だそうですよ?いくらこの国に身寄りがないお方だからとはいえ、他のお部屋で十分事足りるじゃないですか。正室ではなく側室のお部屋だったり、貴賓館だったり。そうしなかったのは、“決して半端な気持ちじゃない!君を誰にも渡さない!”って、想いが溢れてるじゃないですか」



氷の王子様の氷が解けて、想いの池が作れそうですよ、なんて訳の分からないことを付け加えるメイの語調は力強く。

「力説」そんな言葉がぴったりきそうなほどに、熱く感じられる。

鼻息も荒く抱き締めるような身振りも加わって、夢見るような瞳はキラキラと光り頬はピンクに染まってる。

興奮したメイは気を落ち着かせるようにお茶をぐいっと飲み干した。

そのあと、ずいっと顔が近づけられる。