ハート模様のシンプルなものと金の縁取りつきの花模様のもの、二つのカップがコトンと音を立ててテーブルの上に並べられる。

ティーポットから甘い花の香りがふんわりと漂い始めた。



「んー、いい香り。エミリー様、飲みごろになりましたよ」



メイの笑顔と弾んだ声。

これに何度元気づけられたかしら。



この国に迷い込んで、アラン様に保護されて。


冷たく向けられた、鋭いブルーの瞳。

とても怖いお方だと思った。


“この国で生活できるようになるまでの間”


そんな約束で、この塔での生活が始まった。

あの頃は、毎日故郷のことを想ってたっけ・・・。


眠れないわたしのためにと、メイが催し始めた二人だけのお茶会。

2階の部屋にいた頃からずっと欠かすことなく続いてる。

今日一日にあった出来事をお互いにお喋りし合う、楽しくも心安らぐひととき。

一日のうちで唯一、“エミリー様”ではなく一人の女の子になれるとき。

この時間だけは、メイも友達として接してくれるのがとても嬉しい。

王子妃になっても続けたいけれど、アラン様は許してくれるかしら―――




「でも、エミリー様も大変ですよね。お疲れになるのも分かります。予定がぎっしりなんですもの・・・。アラン様が急ぎ過ぎでらっしゃるんですよ」



まぁ、気持ちは分からなくもありませんけど・・・と呟いてチラッと投げられた空色の視線が耳の下辺りにこつんとぶつかる。

カップに視線を戻してニッコリ笑うその横顔が、なんだか意味ありげに見える。

何を、思ってるのかしら・・・。




「エミリー様、侍女長が仰ってましたけどね。普通は、ご婚約からご婚儀までは最低でも半年ほど空けるそうなんですよ?」


「・・・そうなの?半年も?」


「そう。教育とか、お支度とか・・・。待ってるだけの王子様と違って、お妃様になる方はいろいろあって大変なんですから。覚悟も要りますし・・・半年はないと―――」



ホワホワとした湯気を上げながら、カップの中にお茶が注がれていく。

注ぎ終わったそれを、どうぞ、と前に置いてメイは向かい側の席に座った。

ほのかなローズの甘い香りが部屋の中に広がる。



「それを、僅か2カ月足らずで行うんですもの。とんでもなく強行なスケジュールだと思います・・・たまには『疲れちゃったわ・・』って、甘えてみたらどうですか?それか、遠慮せずに、可愛らしく『たまにはお休みしたいの』とか、文句を言ってみたらいかがです?」



きっと慌てて御機嫌を取ろうとなさいますよ、と言って砂糖菓子の乗った皿に手を伸ばした。