こんなに近くにいるのに、とても遠く感じてしまう。
アラン様・・・あなたの顔を見たい。
声を、聞きたい―――・・・
ディナーが終わり、シャワーをすませて部屋の中で寛ぐ頃になると、いつも通りにノックの音が響く。
開いた扉の向こうから、ひょこっと覗いて見える顔は、笑顔ではなく、眉を寄せててとても心配げ。
―――多分、シリウスさんから伝わったのよね。
そういえば。食堂でも、しょっちゅう料理長が見に来てたっけ。
城の中が暗くなるって、こういうことなのかしら。
皆の笑顔が、なくなる・・・―――
「エミリー様、シリウスさんが心配してましたよ。“元気がない”って。体調が悪いのですか?お茶はやめて、フランク様をお呼びしましょうか?」
お茶セットを乗せたトレイを持ったまま、様子を窺うように動きまわる空色の瞳が覗き込む。
「ごめんなさい心配掛けて。気分が悪かったの。少し疲れてしまったみたいで。けれど、もう大丈夫よ」
―――ほんとうは、気分は悪くない。
でも、寂しいだけなの、なんてとても言えないわ。
余計心配かけてしまうもの・・・。
何ともないことをアピールするように笑顔を向けると、メイは安堵の顔になってテーブルの隅にトレイを置いた。
「そうですか?平気ならいいですけど・・・体調が悪い時はきちんと言って下さいね。エミリー様は我慢する時がありますから――――でも、良かったです。今日のお茶は特別なんです、飲み損ねたら損ですよ?薔薇の香りがいいって評判のものなんですから。城下の一番の流行です」
働き者の白い手がテキパキと動いて、お茶の準備が進められる。
ポットからアツアツのお湯が注がれ、お茶の葉がふわふわと踊る。
ほら、砂糖菓子も新発売のなんですよ、と小皿をテーブルの上に乗せながら嬉しそうに笑う。
「―――今日、兵士団が城下に行くって言うから、ジェフに頼んで買って来てもらったんです」
任務の休憩時間にササ~ッと・・・。
内緒なんですけどね、とウィンクしてにこっと笑うその指には、ジェフさんにつけてもらった指輪が光る。
婚約はしてるけれど結婚はまだまだ先だそうで。
“ジェフがはっきりしないんです”
前に尋ねた時、そう言って口を尖らせていたっけ。
お互い忙しいこともあってゆっくり話が出来なくて、なかなか進展しないみたい。
・・・早くまとまるといいけれど。
幸せな二人の姿を見たいもの・・・。