“すでに、ご存知のことかもしれませんけれど。一応、と思いまして――――”

囁かれたジェシーさんの言葉を追い払うように、ぶんぶんと頭を振る。

きっと大丈夫。


きっと、平気―――







この部屋も、さっきまで賑やかだったのに・・・。

リリアさんたちがいなくなり、慌ただしく騒がしかった部屋の中が嘘のように静まり返る。

昼間聴こえる鳥たちの綺麗な囀ずりもなくなり、時を告げる政務塔の鐘の音だけが静かに響いてきた。

今からメイが来るまでの間は、独りきりの時を過ごす。

婚約してる今でも、前と変わらずにランチとディナーは独り。

婚儀がすむまでは、アラン様は王の塔でお食事をする。




「すまぬ・・ケジメゆえ・・・許せよ」



眉を寄せてそう言ったアラン様はとても辛そうだった。


あと半月ほどの我慢だって分かってるけれど、やっぱりこの時間になると、寂しいと思ってしまう。



「夕暮れ、だからかしら・・・」


全てのものが闇に染まっていく時間。

世界が陽から陰へと変貌を遂げていく。

そんなときは、人の気持ちも沈みやすくなるのかもしれない。





「失礼致します。エミリー様、点灯の時刻です―――・・・、どうか、されましたか?」



切れ長の目が探るように見つめてくる。


シリウスさんは四六時中わたしを見ているせいか、変化にとても敏感。

今も普段通りにしていると思うのに、僅かな心情の波を鋭く感じ取ってくる。



確かに今の気分は、沈んでる―――




「何でもないわ。少し、疲れてしまって気分が悪いの・・・ごめんなさい、心配しないで」


「お疲れでしたら、フランク殿を呼びましょうか」


「お呼びしなくていいわ、少し休めば治りますから」


「・・・承知しました。ですが、ご無理はなさらないで下さい。エミリー様に何かありましたら、城の中が暗くなりますので。どうか、くれぐれもお願い致します」


「えぇ、ありがとう。気をつけるわ」



じーっと顔を見てたシリウスさんが大きな息を吐く。


口をぐっと閉じて、壁の灯りをひとつだけ点した。



「やはりアラン様に連絡を致します」



振り返り早口に言いおいて足早に歩いていく。



―――アラン様?

フランクさんじゃなくて?

どうして急に―――





「あ・・・あの、待って。シリウスさん!?」