ハッとして口を押さえるけれども、もう遅い。

リリアさんはキッとこちらを向いて、鉤型を作ったまま固まってるジェシーさんの指を睨んだ。


「ジェシー!?」


びくんと肩を震わして声を出さない唇が動いて“いっけない・・”と言ったように見えた。


「エミリー様にお話しするようなことではなくてよ?」

「あらぁ、いやだわ。・・・リリアがきっかけを作ったんじゃないの」



開き直ったようにむくれて不満そうな声を出して、くるんと振り返る。

二人とも無言のまま睨み合っててとても険悪な雰囲気。

さっき叱ってた年嵩の方が険しい表情で、コホン・・、と咳払いをしているのが見える。しかも、今にもこちらに歩いてきそう。



「あ、ジェシーさん・・リリアさん・・・あの、ごめんなさい。わたしがジェシーさんに尋ねたばかりに・・・」



今にも言い争いが始まりそうで、おろおろと声を出すと険しかったリリアさんの顔がすぅと和やかに変わった。

深深と頭を下げた後の表情に営業用の笑みが零れる。

いつもの、リリアさんの顔。



「ああ・・エミリー様、大変申し訳御座いません。はしたないところをお見せしまして・・・。いけませんわね、さっき注意されたばかりですのに。御心配なさらないで、喧嘩をしても仲がいいんですの私たち。ジェシーとはいつもこんな風なんですよ」

「そうですわ。エミリー様、申し訳御座いません。お気になさらないで」


ジェシーさんも深深と頭を下げる。



「―――・・・それよりも、早く仮縫いを済ませなければ、時間が御座いませんわ。次はこちらを、お願い致しますわ―――」


リリアさんは、次のドレスを取り出した。

それから5着ほど着せ替え人形のように、着ては脱いでを繰り返した。

リリアさんたちはアラン様のメッセージを気にしつつ、手際よくサイズを合わせて、これまた手際よく脱がされて次のドレスを着せられる。

それでもやっぱり時間がかかって、やっと仮縫いを終えた頃には、日はすでに西の山に傾いていた。

部屋の中が、夕暮れ色に染まっていく。


来た時と逆に、白い腕がてきぱきと箱の中にドレスを仕舞いはじめた。

慌ただしく片付けをすました二人が「失礼致しました。では、次回は出来あがりましたときに」と、丁寧に頭を下げる。

その去り際、扉を閉める間際にジェシーさんがシリウスさんに待って、と言った。閉まる途中の扉がピタと止まり、何でしょうか、と尋ねてる。


「・・・忘れ物を致しましたの。取りに戻りますわ。リリアはここで待ってて頂戴」

と、部屋の中に戻ってきた。

けど、忘れ物を取りに来た風でもなく、真っ直ぐこちらに向かって来る。



「ジェシーさん?忘れものは―――?」


不思議に思っていると、ブラウンの瞳をキラリと光らせて、にっこりと笑う。



「大事なこと、エミリー様に、伝え忘れたことがありますの。失礼致しますわ」


こっそりと、耳打ちをしてきた。