アラン様が、そんなことを・・・。


指が示したそのラインは肩甲骨の真ん中辺りで、今仮縫いしてる襟のバックラインはそれよりも下・・・。

ということは、デザインを変えてしまうの?

結構大人っぽくてお妃様らしくて、気に入ってるデザイン。

アラン様のお母さま、皇后さまもお勧めのもの。

変えるとなると、それはとても残念で哀しい。



「いいえ、大丈夫ですわ、工夫致します。・・・でも、エミリー様が羨ましいですわ。愛がたくさん感じられますもの。私なんて、もう酷いものですのよ?今あの時のことを思い返しましても、ムカムカと怒りが込み上げてきますわ」



何かを急に思いだしたようで、リリアさんは、まったくもうっ、と言ってソファの背もたれをバシンと叩いた。



「あら、リリア。まだあのときのこと言ってるんですの?もう随分前のことですのに。もうとっくに時効ですわ」



落ち着きなさいな、と言いながらリリアさんの肩にてのひらをポンと置いた。

その手を振り払いながらジェシーさんをキッと睨みつける。



「ジェシーはもうっ、他人事だからそう思うのよ」


「まぁ、怖い。あなたも結構執念深いんですのね」


「あら、あなたもよ?今の彼と結婚する時には、しっかり気をつけるとよろしいわ。あの人が仰るには、世の殿方は皆、誰しもがそうするらしいですから」





リリアさんが怒ってる・・・。

三ヶ月前に結婚したばかりで、今は幸せな新婚さんの筈だけれど、これはもしかして、ご主人様と喧嘩をしたみたい。





「あ、あの、ジェシーさん。リリアさんは、昨日ご主人様と何かあったのですか?」



本人に聞くのは少し怖いので、リリアさんに聞こえないように、こっそりと囁くようにして尋ねてみた。



「いぇ、エミリー様。リリアは、結婚前に御主人がしでかしたことに対して、未だに立腹しているのですわ」


「結婚前のこと・・・」


ということは、三ヶ月前のことよね。

内容によるけれど、随分前と言えなくもない。

リリアさんがあんなに怒るなんて、何があったのかしら。



「えぇ、あの時は驚きましたのよ。結婚式に遅れて現れたご主人様の頬に、こんな大きなガーゼが貼られてたんですもの―――」



ジェシーさんの指が頬を滑って大きな四角形を象った。