「・・・エミリー様は、やっぱり私など庶民とは違いますわね。あの氷の王子様とよばれるお方が、こんなことをなさるなんて・・・」



再び背中で溜息が吐かれる。

リリアさん?



「ほら、やっぱりリリアも意外だと思うでしょう?」



当然ですわよと言って針を進める手を止めて、ジェシーさんはしつけ糸の端をチョキンと切った。




「あら、ジェシー。私は“意外”と言ってるわけではありませんわ。あなたは知らないことですけど、以前サルマン様の屋敷で拝見した時のアラン様は、とても情熱的でしたのよ。熱い思いがひしひしと伝わって来ましたもの。私、あの時すでに、こうなると分かっておりましたわ。ただ・・・こうして、私たちにメッセージを下さるとは、思ってませんでしたけれど」




―――アラン様がリリアさんたちに、メッセージを・・・?



「・・・リリアさん、それって、なんですか?わたしに内緒なことですか?」

「あら、やっぱり、お分かりではないのですね」



リリアさんはクスッと笑って、これは本当は想像なんですけれどね、と言葉を継いだ。



「エミリー様・・・コレ、ですわ・・・」



ふふと笑い声を漏らして、リリアさんの指がツーと滑って背中に線を書いた。

それは、あの印がある辺りを繋いでるようで・・・。



「アラン様は、コレを、私達仕立屋が来る前夜に付けられたのですよ?見られることを分かってらっしゃるのに。・・・私たち仕立屋は、コレを御主人さまからのメッセージと、受け取りますの」



「結構よくあることですのよ。特に貴族の殿方は、恥ずかしいのか口では仰れないものですから。その・・・態度で示される、と言いましょうか・・・」




ジェシーさんが針を仕舞いながら説明をしてくれる。

けれど、漠然としていていまいちよく分からない。


えっと、メッセージ・・態度で示す・・・。

アレが関係してるのは分かるけれど。

頭の中で整理しながら、うーん、と考え込んでいると、鏡越しにリリアさんが苦笑してるのが見えた。




「―――えぇと、そうですわね。アラン様の申されるように致しますと、“肌を見せてはならぬ。良いか、ココまでだ”ですわ」