二人はドレス専門店の従業員さん。

店員のリリアさんと、お針子のジェシーさん。

シルヴァの一件以来のお付き合い。

ドレスは勿論のこと、普段着もここで作ってもらってる。

わたし専属の仕立て屋さんだって、アラン様がそう決めたのだ。



婚儀の日は、戴冠、謁見、お披露目と儀のたびに衣装を直す。

パーティも日を別けて幾度か催されるから、ドレスは何着も必要になる。





“エミリー、母君から伝言だ。十着は用意するように、と”


“十着も、ですか?”


“そうだ。もっとあっても良い。私は立ち会えぬゆえ、君の好きなものを好きなだけ購入するが良い”





さすがに、十着は多いと思うけれど、たくさん要ることは確か。

だから既成のものの他に、数着作って貰ってるのだけど。

背中に何か問題があるみたい・・・。




「えぇ、エミリー様ございます。でも、ご心配なさらないで。悪いものではありません。寧ろ羨ましいですわ」

「あら。私は、とても意外に思っていますわよ」



ため息混じりの声と少しつんとした声。



―――意外で、羨ましいもの?

何かしら。キズではないようだけど―――




「エミリー様。昨夜は素敵な夜を過ごされたでしょう?アラン様の『愛の証』が背中に2つも御座いますわよ」

「えっと・・・昨夜?『あいのあかし』ですか??」

「えぇ、エミリー様。背中の・・ココと、ココに。それと肩の、ココにもありますわ」



情熱的ですわね、と言ってリリアさんが順番に指を置いていく。




―――あいのあかしって・・・もしかして、もしかしなくても、アレのことよね・・・

でも・・・でも、おかしいわ。

背中なんて、おまけに昨夜なんて、まったく身に覚えがないもの。

身体を重ねたのは、帰ってきた日と、脅された日と、あとは―――・・・。






“・・・エミリー”


甘く耳に届く声・・・


優しく触れる長い指



肌を這う唇



・・・潤んだブルーの瞳




思い返すだけで、どきどきしてしまう。



・・・・そういえばあの時、アラン様は背中にたくさんキスしてたっけ・・・。







―――でも、そういうことは数度だけしかしてないわ。

アラン様は無理には求めて来ないもの。

それに、やっぱり“昨夜”だなんて、あり得ない。

いくら眠っていたとしても、そんなことがあればわかるわ。

この数日間、アラン様は忙しくて夜はお部屋に来ていないもの。



だから、そんな・・・刻印を付ける時なんて、ないと思うのだけれど―――