「失礼致します」

部屋の方から声が聞こえる。

あたふたとページを探してしおりを挟んで部屋に戻ると、数名のお客さまが入っていて準備が始められていた。

数本の白い手がてきぱきと動き、箱の中のドレスを次々にハンガーにかけていく。


今日はドレス合わせの日。




「急いで。あ、そこの貴女。貴女は箱を片付けて」



中心になって指示をする柔らかな声の主はあの方、仕立て屋のリリアさん。



「リリアさん、こんにちは」



声をかけると、足早に近づいてきて丁寧に頭を下げた。



「エミリー様。ご機嫌麗しゅう御座います。遅くなりまして大変申し訳御座いません。早速ですがこのドレスからお願い致します」



運び込んだとりどりの中からアイスブルーのものを指し示して綺麗に弧を描く双眉を歪めた。

そして申し訳なさそうに微笑む。


「はい」


挨拶もそこそこに鏡台の前に促され、されるがままに身を任せる。

襟具利が大きく開いたシンプルなこのドレスは、まだ仮縫いの状態。

布を摘まんでサイズを合わせ、お針子さんの針がちくちくとお腹のあたりを進んでいく。

なんだか緊張してしまって固まってると、背中からくすっと笑う声が聞こえてきた。



「エミリー様、そのように緊張なさらなくてもよろしいですわ。あら、これは―――」



髪を掻き分けて背中で作業する手がピタリと止まった。



「リリア、どうかしたの?」



ウェストの布を摘まんでいたお針子さんの指が離れ、背中に回り込んで小さな驚きの声を上げた。



「あら。―――これ、まだ新しいですわよ。昨夜だとしたら、当日まできっと消えませんわ」


「えぇ、そんな感じですわね・・・でも、ジェシー。ココにあるとなると・・・」


「そうですわね・・・これは、ここ以上はダメってことではありませんの?」


「やっぱり、そうなのかしら。ならば、前は?」



背中からヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

なんだか困ってるみたいだけど―――




「あの、背中に何かあるのですか?」



背中に、視線がささる。