・・・やっぱり、様子がおかしいわよね・・・。

アラン様はいつも、お仕事に行く前に額にキスをしてくれるのだけれど。

そういえば。今日はお迎えの時のキスもなかった。

いつも通りに手を差し出してくれたので、そっと手を乗せたら「参るぞ」と言って、そのまま食堂まで誘導された。

いつもは腕の中に包みこんでくれて、そのあと唇が・・・・。



ずっと欠かさず続いていたことが、急に無くなると不安になってしまう。

朝のお迎えのキスは、確かに、やめて欲しいって、何度かお願いしたことはあるけれど―――




「―――出来れば、朝はやめていただけるといいのですけど」


って。そうしたら・・・。


「・・・では、夜ならば良いのか?・・・君にそれ以上のこともしてしまうが―――夜は、抑える自信はないぞ」


顎を固定されて腰を強く引き寄せられて、切なげに潤んだブルーの瞳が見下ろしてくる。

声色は真剣そのもの。


「ぇ・・・それいじょうのこと??」

「そうだ。朝か夜かどちらが良いか、選ぶが良い」



選ぶが良いと、言われても・・・。

それだと、どちらにしてもキスはするわけで。

しかも夜だとしたら―――


「ぇっと・・・あの・・」


“朝”とも“夜”とも言えなくて困っていると、そのまま唇を塞がれてしまって―――・・・





結局、毎朝のキスはずっと続いている。

最近は少し平気になってきたけれど、あんな情熱的なキスをされてしまうと、どうしても暫くぼんやりとしてしまう。

気付いたら食堂にいた、なんてことも何度もあったわ。

・・・だから、困ってるのは事実だけれど。


でも、やめたとは思えないし――――





もしかしたら。何か、怒ってるのかもしれない。

わたし、してはいけないことをしたのかも。


何かしら・・・・っと、昨日は特に何もしてないと思うけれど―――――


本にしおりを挟み込むのも忘れたまま、暫くの間あれこれ思い出してひとつひとつ考えてみるけれど、怒られるようなことはまったく何も思い当たらない。


アラン様の言うことはきちんと聞いてて、塔の規則も破ってない・・・と、思うのだけれど・・・。


・・・なんだか自信が無くなってきたわ。

気付かないうちに破ってしまったのかも。

シリウスさんに、聞いてみようかしら・・・。




――――コンコン・・・コンコン・・・。


『エミリー様、どちらにおられますか』


部屋の方から、扉をノックする音とシリウスの呼び声が同時に聞こえてきた。



―――そうだわ。今日はあの方がくる日だったっけ。



「はい。テラスにいます。お客さまでしょう?入っていただいてください―――今、戻りますから」