「まだ聞いておらぬと思うが・・・薔薇は・・・婚姻の後、君の印となるものだ」

「印、ですか?」

「そうだ。王族の女性は名を使わぬ。持ち物にも書にも全てに刻印を使用する。これから、薔薇の印があるものはみな君のものとなる。それは、分かるな?」


アラン様の瞳が真っ直ぐに向けられていて、真剣なことが伝わってくる。

これは、忘れてはいけない大事なこと。



「・・・はい」

「君は、これから王子妃となる。印のあるものは、簡単に他人に譲り渡すことが出来ぬようになる。そのことをよく覚えておくが良い」



眉が寄せられていて、ずっと怖い顔のまま。

なんだか怒っているように見えて返事に困っていると、すまぬ、と呟いて表情が少しだけ和らいだ。



「・・・君の物であるゆえ、本来は自由にして良い。私が口を出すことはおかしいことではある。が、譲る時は、必ず私に相談して欲しい。・・・・君には前科があるゆえ―――わかるな?」



そう言い終えると、武骨な掌がそっと頬を撫でて、髪を優しく梳き始めた。

すくってはさらさらと零すをくりかえしている。

指先が不意に耳に触れて、くすぐったくて身体がぴくっと震えてしまった。

すると、急に顎に手が回ってきて、指が添えられてくいっと上を向かされて固定された。

もう片方の手は背中に当てられている。

長めの親指が唇をするすると撫で始めた。

ゆっくりと、何度も輪郭を辿るように。

時に、柔らかさを確認するように。



“・・・・・”


目の前の唇が僅かに動いて何か呟いた。

けれど、何て言ったのかまったく聞こえない。

ブルーの瞳は唇のあたりをずっと見つめたまま。

それはなんだかとても切なそうで、とても潤んでて――――


様子がいつもと違ってみえる。

ドキドキしてしまって、どんどん頬が熱くなっていく。



「ぁ・・の・・・アラン様・・・?」



とても長い時間のように思えて、堪らなくなって声をかけると、ぱっと身体から一気に手が引いていった。


何故か、瞳も逸らされていく。



「・・・今夜も遅くなるゆえ、君は先に眠るが良い―――では行って参る」


「・・・はい。行ってらっしゃい・・・」



足早に食堂を出ていってしまった。



・・・アラン様・・・??