呟きつつ小さなてのひらに乗せたものを眺めた。

今日は、ひとつアラン様から貰ったものがある。


瞳に映すだけで、ほんわりとあたたかくなって

幸せな気持ちになれるもの――――――





「エミリー、君に渡すものがある」


朝食の後そう言うと、アラン様は自席から立って、静かにこちらに歩いてきた。


「今、必要であろう?」


武骨な手がすーと差し出された。

そこにあるのは、アラン様の瞳と同じ色の綺麗な紙包み。

意外なことに驚きつつ受けとるとそれはとても軽くて、真ん中にはリボンで作られた薔薇の花がつけられていた。

開けるのが勿体ないほどに美しい。


―――これを、わたしに?―――


「素敵だわ。いったい何が入っているんですか?」


見上げると、無言のままのブルーの瞳が“開けてみろ”と優しく促してきた。


―――必要なものって、何かしら・・・。


ワクワクしながらも丁寧にリボンをほどいて中を覗くと、黒色の小さくて薄い箱が入っていた。

取り出してみると、小さな銀色の紙で封がしてある。

なんだかとても高級そう。

慎重に紙を剥がして開くと、えんじ色の敷物の上で薄い金属がキラッと光った。


これは・・・。



「アラン様、ありがとうございます。とても嬉しいわ。実は不便だったんです」


以前貰ったものは、とても思い出深いものだったけれど、ママに託して故郷に置いてきた。

あれはわたしが家に帰ることが出来たという証。

また、いつでも会えるという証だから―――――




箱の中から手に取って、じっと見つめる。

銀で作られたしおり。

新しいそれは、てのひらの中で朝日を受けてキラキラと光る。


今度のデザインは薔薇の花。

縁にぐるりと蔓が象ってあって、真ん中に薔薇の花が一輪堀り込んである。



べつにおねがいした訳ではない。

けれどアラン様は、わたしの欲しいものをわかってくれていた。

それが、とても嬉しい。

わたし、とても幸せだわ。




じーんと感動に浸っていると、アラン様が目の前に跪いた。

温かい掌が、しおりを持った手の上に重ねられる。


反対にブルーの瞳は真剣な色を宿していて、少し怖く見える。


もしかして、何か、大事なことを言うのかも・・・。


気持ちを改めてアラン様をじっと見つめた。