政務塔の中の、一番豪華な部屋。

ふかふかの絨毯にふかふかのクッション付きのソファ。

磨き上げられた、金の縁取り付きの白い猫足テーブル。

天井には豪華なシャンデリアがきらめき、壁には国一番の画家の絵が飾られ、花瓶には惜しげもなく零れるほどに綺麗な花が飾られていた。

鏡台の前には白い花嫁衣装を着たエミリーの姿。

アランの希望で、肌をあまり出さずに作られたデザインのドレスは、シンプルに見えるが、あちこちに宝石がちりばめられ、薔薇の花の刺繍が裾の方に向かってだんだん大きくなるように施され、エミリーのお気に入りのドレスになっていた。

愛を手に入れた姿は、ベールをかぶっていても目映いほどに美しく、腕にはしっかりと細いリングが嵌められていた。



「エミリー、とても綺麗よ・・・」


「本当だ、世界で一番綺麗な花嫁だ」


エレナとジャックは、嬉しそうに目を細めた。

二人とも、ここで借りたのか、王家の正装に近い姿をしていた。

エレナはアイボリーのシンプルなドレスを身に纏い、腕には短い手袋を嵌め、短いベール付きの帽子をかぶっている。

ジャックのほうは黒に近い濃紺のスーツを身につけ、紋章は無いものの、何処から見ても貴族の一員のように見えた。



「パパ、ママ、来てくれてありがとう。大変だったでしょ?」


「そんなことないわ。ねぇ、ジャック?」


「あぁ、なんてことないさ」


そう言う二人の顔は少し引き攣っていた。

きっと、書斎の窓から飛び降りるのに、すごく勇気がいったのだろう・・・。





コンコン――


『エミリー様時間で御座います』


「はい・・・」



扉がサッと開かれ、きびきびとした足取りでウォルターが迎えに来た。





「エミリー様、お綺麗です!」


「エミリー様、おめでとうございます」


「エミリー様お幸せに!」


貴賓館に向かう途中、使用人やメイド、それに兵士たちが口々にお祝いの言葉を叫んだ。

医務室の方からはフランクとリードが出てきた。



「エミリーさんおめでとうございます。大変お綺麗です・・・もうあなたでないと、王子様のお心は平穏に保たれません。どうか、見捨てないであげて下さい」



フランクは眼鏡の奥を涙で濡らし、嬉しそうに微笑んだ。



「まさか、あなたが戻って来られるとは、思ってませんでしたよ。私は全く待っていなかったんですが・・・その、あなたが戻られて、よかっ・・・あの、王子様の機嫌が悪くて困るよりは、良いかと思います――――おめでとうございます」