空には二つの月が重なり合い、シャクジの花の草原に明るい光りを落としている。

コンコンと湧く泉の水を照らし出し、シャクジの花は月明かりにつやつやと煌き、森を通る風がサワサワと木々を揺らしていた。

その中でリックは人待ち顔で立っていた。

在る一点を睨み、愛犬のバロンと一緒にずっと待っていた。

アランがウォルターとフランクと一緒に消えたあの場所。

あの、大きな木の根元。


――遅い・・・。もしや、アラン様の身に何かあったのだろうか。

もしや、もう帰ってこないということはあるまいな・・・。


眉間のしわを更に深め、穴があくほどに木の根元をじっと見ていた。

すると突然、何もなかった空間に、エミリーを抱きかかえたアランがふわっと現れた。

スタスタと此方に歩いてくる。



「アラン様よくぞ御無事で・・・エミリー様、お久しぶりで御座います。あぁ良かった・・・本当に良かった」



リックは皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、涙を流しながら笑った。

その後に、ウォルターとフランクが手をつないだままふわっと現れた。


「リック、心配をかけたな・・・例のものを―――」


「はい、アラン様、此方に御座います」



アランはシャクジの花が咲く草原の真ん中にエミリーをそっと下ろすと、正面に向き合うように立った。

月の灯りに銀の髪が金色に光って見える。



「エミリー、私は長い間、この言葉を申さずにおった。伝えるべき時を、この日をずっと待っておった」


アランの大きな手がエミリーの小さな手をそっと包み込んだ。

エミリーのブロンドの髪が夜風に揺らめき、つやつやと輝いていた。





「エミリー、君を愛しておる。この世の全てよりも、誰よりも―――」




風が二人の間を吹き抜けて、薔薇色に染まったエミリーの頬を心地よく撫でていく。

アメジストの瞳は放心したようにブルーの瞳を見つめている。




「エミリー・モーガン、私の妃になって欲しい」




アランはリックから貰った包みを開け、中身を取りだした。

それは古びた箱。以前国王から譲り受けた、あの箱だ。



「コレは、リンク王のリングだ。君には毒になるかもしれぬゆえ・・・渡すだけに留めておく。で、コレが私が新たに作ったリングだ」


アランの手の中には新しい綺麗な細いリングがあった。

細い中に繊細な模様が彫り込まれている。




「エミリー・モーガン、私は永遠に君を愛す。大切にすると、この綺麗な瞳を曇らせることはしないと、今宵、この月に誓う」