「ここがシャクジの森に通じておる。では、参るぞ」


エミリーの身体を軽々と抱き上げ、窓の桟に立った。

エミリーの顔がすぅっと青ざめていく。


――ここ・・・?ここのどこに世界の扉があるの?何も見えないけれど・・・

エミリーの脳裏に、最初に世界の扉を潜ったあの時のことが思い浮かんだ。

暗闇の中に落ちていったあの――――



「まさか・・・待ってアラン様・・・あの・・・本当に・・・きゃぁぁっ」


エミリーはアランの体にしがみつき、瞳をギュッと瞑った。

窓から飛び降りた時、一瞬の落下感の後、アランはスタッと着地した。


「大丈夫であっただろう?」


飛び込んだ空間は、エミリーが歩いて帰ってきた時と同じ、光りの平原。

よく見ると光の筋が遥か向こうに向かって伸びている。



「アラン様・・・アラン様はどうしてここが通じてるって分かったのですか?」


「最初に気付いたのは、リックだ。シャクジの森の空間がおかしいと、申して参った。よく話を聞いてみると、最初に君が倒れていた場所であるということが分かった。リックとともに森に行き、シェラザードに貰った月の雫をそこに置いたら、光りの空間が広がり、道を示すように一筋の光が空間の中に伸びておった。あの世界の扉を潜って、君の元に辿り着けるかどうかは一種の賭けであった。もしやのため、パトリックに全権をゆだねて参ったゆえ―――」


「アラン様・・・わたし、とても嬉しい・・・もう二度と会えないと思ってたの」


「君が何処に参ろうと、必ず迎えに行く・・・喧嘩しても、逃げることはかなわぬぞ・・・覚悟は良いか?」


「はい・・・」


アランの歩みが止まり、二人の唇が重なった。






―――アランがエミリーを抱えたまま窓から飛び降り、フッと消えた後、ウォルターがフランクの顔を覗き見た。


「フランク殿、大丈夫ですか?顔色が悪いですが・・・。このくらい、なんてことは無いのでしょう?」


「ウォルター・・・実は、私は高いところは苦手でね・・・だから、宜しく頼むよ」


「だから、待っていて下さいと―――まぁ、今更仕方ないですね・・・ほら、行きますよ」


ウォルターは、大きな鞄を抱え、引き攣った笑顔を向けるフランクの手を握り、一緒に窓から飛び降りた。


フランクの叫び声が夕闇色の空に木霊した。