一方、ギディオンの国では、レオナルドが出立の準備をしていた。


「レオ、まだ滞在していてもいいのだぞ。初日には“ゆっくりさせて貰う”と、そう申しておったではないか」


「いや・・・もう居る意味が無くなったんでね。早々に帰らせて貰うよ」


「彼女が居なくなったからか?君の目的はやはり、預言の者だったのか。彼女を国に連れて帰るつもりでおったのだろう」


「分かっていたか・・・そうだ、私は連れ帰ろうと思っていた―――そして、君のように、彼女の心を奪おうと思っていた。私なりに上手く事を運んだつもりだったんだが、まさか国に帰ってしまうとはな―――」


「残念だったな・・・預言は・・前半部分しか果たされぬ。だが後半部分も、彼女が居ても果たされるかどうかは分からぬ。あまりにも壮大すぎる故――――」


「そうだな。だが、君なら出来そうではないか?爺、例のものをこれへ―――」


「はい、レオナルド様・・・」


レオナルドが命じると、爺はえんじ色の布に包まれた物を恭しく持ってきて、レオナルドに渡した。

レオナルドの顔が一瞬バツの悪そうな顔に変わり、アランの前で布を取りはらった。

アランの形の良い眉がピクッと動き、グリーンの瞳と差し出されたものを交互に見た。



「レオ・・・コレは―――君が持っておったのか・・・」


「あぁ、そうだ。私が賊を雇って、ここから盗ませた。私を罰するか?」


「申してくれれば、貸したものを。全く君という奴は―――で、新たな発見はあったのか?これを読破したのであろう?」


アランは中身を確かめるようにパラパラとページをめくった。

すると、中ほどのページに、綺麗なミントグリーンの紙が挟まれていた。

武骨な指がそれをつまみ、さっと一読した。


「私が知りたかった預言は、それ一つだけだ。だからそこしか調べてないよ」

「君は、コレを彼女に見せたのか?」

「見せようと思ったが、彼女はこの本を受け取りもしなかったよ」

「そうか・・・・」


アランは、困ったようにあたふたと手を彷徨わせるエミリーの姿を思い浮かべた。


レオナルドは空を見上げ、グリーンの瞳を眩しげに細めた。

今日も悔しいくらいに空が青い。


――全く、人の気も知らないで・・・雨でも降れば良いのに。


「じゃ、アラン、私は帰るよ。願わくば、彼女が―――まぁ、無理か・・・」


「あぁ、そうだな。レオ、道中気をつけて帰ってくれ」


レオナルドは振り向きもせずに手を上げ、モスグリーンの馬車に乗り込み、国に帰った。