携帯を拾うと向こうから叫ぶ声が聞こえてきた。

『ジャック!・・・何があった。くそ・・・一体どうしたというんだ』

「もしもし?まぁ、ごめんなさいね。少し待ってて――ジャックったら、まだ通話中じゃ―――」


携帯を差し出しながら、ジャックのほうを見て、エレナは息を飲んで目を見開いた。

ジャックがここ最近見たことがないような顔で、嬉しそうに笑っている。

隣には、白地に金の刺繍の豪華なドレスを着た娘の姿。



―――これは夢を見ているの?まさか、見間違いかしら・・・?


行方不明になってからというもの、毎日想わない日は無かった。

駅前でビラを配り、少しでも情報を得ようと、サイトまで開いて探していた娘。

その娘が、今、目の前でジャックの腕の中にいる。


携帯が再びゴトンと音を立てて床に落ちた。




「ジャック・・・その人は・・・まさか―――」



信じられないといったように首を振り、両手で口を覆った。

紫の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちている。




「何てことなの―――私は夢を見ているの―――?」



「エレナ・・・エミリーだ。帰って来たんだよ。本物だ・・・エレナ、エミリーだよ」



「エミリーなの・・・?本当に、エミリーなのね?とても綺麗になって・・・この姿は・・・このドレスは・・・一体どうしたの?」



言いながら駆け寄ってくると、ジャックと同じ様に、頭のてっぺんから足のつま先まで丁寧に眺めた。



「まるで姫君のようね?あなた・・・どこかの国で、姫にでもなってきたの?」


「ママ、それ、ある意味当たっているわ・・・」


エミリーは泣きながらも、エレナの言い方が可笑しくて、思わず笑った。



「お帰りなさい、会いたかったわ。私の可愛い娘―――」


ジャックがエミリーの身体を放して、エレナの方に向けた。



「ただいま、ママ。わたしも会いたかったわ―――」



エレナは頬を涙に濡らしたまま、エミリーの頬を両手で包んだ。

エミリーの頬も涙でぬれている。



「エミリー、こんなに綺麗になって・・・本当に、私の娘じゃないみたい。この布は何というものなの?この刺繍は金糸ね。この宝石は本物だわ。あなた、一体何処の国に行ってきたの?」


エレナは矢継ぎ早に言いながら娘の姿のチェックをした。



「その前に・・・パパ、携帯は大丈夫なの?誰かと話していたのでしょう?」


「しまった!」



ジャックは慌てて携帯を拾って、冷や汗をかきながらペコペコして謝った。

謝罪の言葉を連ねながらも、その表情はとても嬉しそうだった。



「ママ・・・実は、わたしね―――」



「エミリー、下でゆっくり聞くわ」