自分の家なのに、なんだか他人の家に入るようで、ドキドキしていた。

部屋の中を見回すと、雑然とした書斎の中には誰もおらず、しんと静まりかえっている。

壁に掛けられた時計は昼の1時を指していた。



「パパったら、相変わらずね・・・」


机の上には書類と本が散乱し、以前と変わらない様子にほっとするのと同時に、帰って来たという実感が湧いてきた。



『待ってくれ。その件については、検討の上、明日連絡するよ。すまないが今は、娘の――――!?」


携帯を顎で挟み、話しながら入って来たジャックは、驚きのあまり持っていた書類を床に落とした。




「まさか・・・エミリーなのか?」



「パパ・・・・」




腕から残り全部の書類がバサッと落ち、顎から携帯が零れ、ゴトンと床に落とされた。


『ジャック?・・・どうした!?おい返事しろ―――ジャック!?』


携帯の向こうから叫ぶ男の声が聞こえてくる。

それに全く構いもせず、ジャックは目の前の自分の娘から目が離せなかった。



―――どうしてここにいるんだ?私は幻を見ているのか?

何故か、娘の身体は光り輝いているように見え、見たこともない布地のドレスを着て、綺麗に着飾っている。


それに、こんなに美しかったか―――?



「その姿は・・・まるで、どこかの国の姫のようだな・・・」



ジャックはエミリーの姿を上から下まで丁寧に眺め、紫がかったブルーの瞳を緩ませた。

手を握り、身体をそっと抱き寄せて耳元にキスをした。



「夢か?本当にエミリーなのか?」


「パパ、帰ってきたわ・・・ただいま・・・」


「お帰りエミリー。よく顔を見せておくれ・・・随分、綺麗になったな」



肩に手を置いて、エミリーの顔を確かめるように覗き込んだ。

ブロンドの髪に綺麗なアメジストの瞳・・・紛れもなく自分の娘のエミリーだった。

だが、アメジストの瞳には、何か光り輝くようなものが宿っている・・・。

一体何処で何をしていたのか・・・。



『ジャック?今、何か大きな音がしたわ。また何か落としたの?だから、日頃からもっと片付けて下さいって、言ってるんです』


エレナが階段を上がってくる音がする。



『ジャック、私も手伝いますから』


書斎の扉が開かれ、エレナが床を見渡した。


「まぁ、こんなところに書類が・・・携帯まで・・・一体どうしたのですか」