あれからエミリーは、ずっと眩しい光の中にいた。


――来たときは暗闇だったのに、何故こんなに明るいのかしら。

もしかして、リンク王様の願いが叶ったせい?


それとも、この天使の力のせい?



「―――良いのですか?あなたには、この世界で彼と共に生きる選択肢もあるのですよ?」

「いいんです。わたしが側に居れば、アラン様はわたしを守ろうとします。それでは駄目なのです」

「まぁ、どうして駄目なのですか?彼はそれでいいと言うと思いますよ」

「駄目なのです。一国の王子様ですもの、アラン様には公務がたくさんあるし、外交もあります。わたしでは、身分が無いために、どうしても負担をかけてしまうんです。今は良くても、そのうちきっと後悔することになるわ。そうなる前に、最初からなかったことに・・・」


エミリーの声が少しつまった。俯いて涙を拭いて、もう一度シェラザードを見た。その顔は無理に笑顔を作っているように見える。


「わたしは離れた方がいいんです。アラン様はマリア姫のような方と、一緒になるのが一番いいんです」


「あなたはやはり、私と似ていますね・・・。あなたとなら、積年の願いに終止符が打てそうです」


「そのときは、お願いします。わたしを――」


「あなたには私の力が宿ります。心に強く思うだけで、世界の扉は開くでしょう―――」



シェラザード様が言った通りに、国を、家を、両親のことを強く思ったのだけれど・・・。

また、何もない光の平原に来てしまったわ。


どっちに行けばいいのかしら・・・。

エミリーは瞳を閉じて、もう一度両親の姿を思い浮かべた。


すると突然、前方から懐かしい音が聞こえてきた。

ざわめく人々の声、車のエンジン音、携帯のメロディも聞こえる。


歩きながら二階の書斎の部屋を思い浮かべた。



あれからきちんと片付けられたかしら・・まだそのままだったりするかも。

そうしたら、また手伝って片付ければいいわね?

大学はどうしようかしら・・休学扱いになってれば良いのだけれど・・・。


今、書斎ではパパが仕事してるかしら・・・。

こんな格好をしたわたしを見たら、きっと驚くわね。


歩きながら色んなことが頭に浮かんでは消える。やがて前方に四角い窓のようなものが見えて来た。あれは―――


「あれは、もしかして」


エミリーは見覚えのあるそれに駆け寄って、感慨深げに眺めた。


この窓の桟・・・ここから何もかもが始まったんだわ。

エミリーはか細い指ですーっと撫でた。


そして、窓に手をかけて、そぉっと開いた。