うっとりとアランを見上げ、ねっとりとした視線をブルーの瞳に絡めた。

マリア姫は、有らん限りの色香を込めて、なんとか誘惑しようとしていた。

既成事実さえ作ってしまえば、無下な扱いは受けないはず。

大きな手を両手で取って、掌を豊満な胸元に誘導した。



「私、今凄く緊張していますの。ほら、こんなにもドキドキして・・・」



アランはずっと、されるがままになっている。何を考えているのか、ブルーの瞳はマリア姫ではなく、遠くを見据えていた。




「アラン様、愛しています―――」




マリア姫は囁くように愛を告げ、精悍な頬に指を這わせていき、唇で止めた。

マリア姫の唇がそこを狙って近づいていく。

すると、アランが急に動いた。

無表情のままマリア姫の足元に沈み込み、脚に腕を差し入れてふわりと抱き上げた。



「まぁ・・・アラン様―――」



――やっぱり男ですわね。私の色香に負けない男などおりませんもの・・・。

うっとりとした瞳で見上げ、細い腕がアランの体に絡められた。


―――やっと、想いが叶うのね・・・。



「アラン様・・私、幸せですわ・・・」



胸に頬を埋め、幸せそうに瞳を閉じた。シフォンのカーテンはすぐそこ。

ベッドまで運ばれるものだと思ったマリア姫は、不思議そうにアランを見上げた。

いつまでたってもカーテンを揺らす感覚がない。




「アラン様、何処に行くのですか?このままですと、お部屋を出てしまいますわ」



「警備兵、扉を開けよ」



そう言ったきり、あとは無言のまま部屋を後にし、階段を足早に降りていく。



「アラン様、このままでは外に―――っ!」


マリア姫はブラウンの瞳を忙しげに動かし、唇を噛み締めた。

アランが何処に向かっているのか、分かったためだ。



「お下ろし下さいませ。私、一人で戻れますわ」


「いや、また妙な気を起こされては困る。貴賓館までこのまま行く」


「妙な気だなんて・・アラン様は、私を見て、何も感じませんの?」


マリア姫は、薄い布地の透けるようなドレスを身に付けていた。


「悪いが何も思わぬ。私に、そのような仕掛けは通じぬ。私には愛しい者が居るゆえ・・・その者以外には、何も感じぬ」



マリア姫を貴賓館の玄関先に下ろし、掌を差し出した。


「銀の鍵を返して頂きたい。あれは、エミリーのモノだ」


ポケットから出された銀の鍵を受け取り、大切そうに握った。


「さぁ、部屋に戻られるが良い」


玄関脇にいた警備兵にマリア姫を託し、踵を返してスタスタと歩き去った。