「アラン、一人なのか?彼女は・・・・?」

長い長い時を書籍室の前でジリジリとしながら過ごしていた二人の前に、ようやく出てきたのはアラン一人。

待ち望んでいたエミリーの姿が何処にも見えない。

しかも、アランの顔はいつもより増して憮然とした表情で、心は空っぽのように見えた。



「アラン・・何かあったのか?どうして一人なんだ!?彼女は―――」


パトリックは扉に向かって駆け出した。

アランの制する腕を振り払って、バンッと大きな音を立てて扉を開け放った。

レオナルドも書籍室の中に入り、グリーンの瞳を忙しげに動かした。



「エミリー?何処だ・・・エミリー?」


パトリックの瞳が薄暗い部屋の中を彷徨う。

うろたえるパトリックの背後で、アランの静かな声が響いた。



「パトリック・・・彼女はもういない」


「何?いないとは―――!?いないとは、どういうことだ!?」


アランの胸倉を掴み、怒りをあらわにして詰め寄った。

アランの体が壁にドンとぶつかり、胸倉を掴んでいるパトリックの手がぶるぶると震えていた。

その激しい感情は、普段の温厚さからは想像も出来ない。



「彼女は、在るべき場所に・・・故郷に帰った」


「何故止めなかった!?」


「パトリック・・・すまない・・・」


「アラン、君は・・・君は、それで良いのか?」



パトリックの顔が哀しげに歪み、掴んでいた手がゆっくりと離された。

真っ直ぐに見つめてくるアランの瞳が哀しげに揺れていた。



「彼女がそう望んだ・・・帰りたいと・・・すまない、失礼する」



「アラン―――」



茫然とし、立ちすくむパトリックとレオナルドを残し、アランは足早に塔に戻った。


3階の長い廊下を歩いていくと、寝室に辿り着く前に白い扉がある。



――この中に、つい今しがたまで、心より大切な者がこの中におったのに・・・。

エミリー、君はいつも予想外の行動をするが・・・さすがに今回はどうにもならぬな・・・。


アランは静かに白い扉を開けた。月は重なり合ったまま、テラスの向こうの空に浮かんでいる。




「リンク王、シェラザードよ・・・私は、止めれば良かったのか―――?」



今日という日が忘れられぬ日になった。

もっと違う意味で忘れられない記念の日となるはずだった。


ポケットの中の綺麗な包みを取り出した大きな手が、小刻みに揺れている。



「あの時は、こんなことになるとは思っておらぬゆえ・・・」