アランは驚いて固まったままの身体をそっと離して、服を掴んでいる長く美しい指を包んだ。

「あ、ごめんなさい。わたし―――」

慌てて手を引っ込め、あまりのことに、どうしていいか分からなくなって瞳をギュッと瞑った。


「起こしてすまなかった。もう少し眠るか?朝食はここに運ぶよう料理長に申しつけておく」

アランはそう言うと、すっとベッドから滑り出て、乱れた布団を丁寧に直してエミリーの身体に被せ直した。


「いいです。わたしも食堂に行きます・・・あの、ごめんなさい」

「全く、君は・・・さっきから何を謝っておる?」

布団を整えていたアランの瞳がアメジストの瞳を見つめ、耳元に止まると、何か思い出したように空を彷徨った。

耳元の髪をふわりと避けると、紅い刻印が三つ並んでいる。

昨夜、一つ増やしてしまった刻印。

ブルーの瞳が少し惑うように揺れたあと、アメジストの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「身支度を整える際、コレを見て君は驚くと思うが、コレは君を大切に思うが所以のことであって、決して半端な気持ちではない。良いな?」

「ぇ・・・?」


―――何のこと?不思議なものを見つめるように見上げると、アランはベッドの脇で瞳を真摯な色に染めて見下ろしていた。


「君は、昨夜のことをどこまで覚えておる?私の申したことを覚えておるか?それから―――シャルルとは何だ?」

見下ろす瞳は真摯なまま、矢継ぎ早に質問を投げかける声色は、いつもと少し違っていた。

昨夜のこと?なんだかとても機嫌が悪そうに見えるのだけれど・・・。

わたしやっぱり昨日、何か失礼なことをしたんだわ。

寝ぼけて何をしたのかしら。どうしよう・・・きちんと思い出して謝らなくちゃ・・・。

えっと・・・わたし、昨日とても奇麗な鍵を貰ったあと

確かソファの上で―――


”―――それで良い”

仄かな部屋の明かりの中、ブルーの瞳がキラキラと揺らめいている。

アランは腕をスッと伸ばして、ソファに座っている身体をふんわりと包み込んだ。

それは優しいけれど力強くて、アランの今の気持ちを如実に露わしていた。

ふっと安堵の息を吐いたあと、アランはエミリーにもう一度真摯に向き直った。


「君の家はここだ。もう二度と、どこにも行かせぬ。良いな?」

―――ここが、わたしの家・・・。

この国のどこにも帰る場所がないと、どこにも行くところがないと思っていたのに。

こんな身寄りのないわたしに、帰るべき場所をくれるなんて。

やっぱりこの方は優しい・・・。

嬉しくて、胸が詰まってそれ以上何も言えなくて、無言で頷いたら


そのままぎゅっと抱き締められた・・・。