手首をじっと見つめていると、武骨な手がふわっと覆い隠した。

「すまない。もっと早く迎えに行けば、こんなに辛い思いをさせることもなかった」

冷たいリングの感触が薄れ、手首がほんわりと温かくなっていく。


「君が連れ去られた後すぐに国境を閉鎖した。

その後すぐに君がサルマンの北屋敷にいることが分かった。

だが、すぐに迎えに行くことが出来なかった。サルマン家はこの国の重鎮だ。

更に、あの土地は古い約束で王家は立ち入ることを許されておらぬ。

立ち入るときは屋敷の主、シルヴァに招待されるか、この国の全ての大臣と御三家の承諾書が必要だ。

間が悪いことに大臣一人と御三家のうち一つが長期間の留守をしておった。

すぐに旅先に手の者を向かわせたがどうしても日がかかる。

君を助けるために何度も強行手段に出ることを考えた。

だが、私はこの国の王子だ。サルマンの家を強行に侵せば王家と国の混乱を招く。それだけは避けなければならぬ。

すぐに守りの者を屋敷に放ったが、このように随分辛い目に合わせてしまった・・・。すまぬ・・・私を許してくれるか?」


ブルーの瞳が真摯な色に染められ、真っ直ぐにアメジストの瞳に向けられている。

「許すだなんて・・・そんな

わたしは、アラン様に迎えに来ていただけるような、そんな者ではないのに。

それだけでも夢のようなことで、嬉しいことなのに・・・

こんな風にリングも外していただけて・・・

許すとかではなくて、お礼を言いたくて・・・あの―――」


少し俯き、言葉を探しながら発する声は少し震えている。

お礼を言う時は目を合わせないと・・・

顔を上げると、ブルーの瞳がいつの間にか目の前に迫っていた。

息もかかりそうな程に近い。


「アラン様・・・ありがとうございます・・・」

後ろ髪に手が差し入れられて唇が目の前に迫ってくる・・・

瞳をそっと閉じると、唇は額に触れ・・・頬に優しく触れ・・・耳元に触れた。


そのままぎゅっと抱きしめられる身体。

耳元で少し不規則な息遣いが聞こえる。


「私が君を迎えに行くのは当然だ。君は私の主だ。君が傍にいないと心臓が痛む。もう決して辛い目には合わせぬ」


身体を包んでいた腕がフッと緩められ、アランは体を離してテーブルの上の奇麗な小箱を手に取った。


それは銀で造られた小さな箱。

蓋の真ん中にはルビーのような紅い石が嵌め込まれ、全体に細かな彫刻が施されていた。

「君にこれを持っていて欲しい」