切ない気持ちを瞳にのせて俯くと、手首に嵌められたリングが目に入った。

その存在を強く主張し、急に重く感じたシルヴァのリング。

確か、これは特別製だと言ってた。

こんなリングを嵌めた娘なんて、きっと誰もお嫁に貰ってくれないわね。

これがある限り、シルヴァの影がずっと付き纏う・・・。

アメジストの瞳を哀しげに揺らし、手首のリングを覆い隠すように掌をぎゅっと乗せた。


「メイとナミはもう部屋に下がっておれ」

「はい。アラン様、失礼致します」

いつの間に入ってきたのか、短く交わされた会話の後、パタンと小さな音を立てて扉が閉められた。

サイドテーブルと壁の燭台だけが灯る部屋は、薄暗くて扉側のほうはよく見えない。

段々近づいてくる背の高い人影は、シフォンの向こうで小さな何かをテーブルの上に置いていた。

そして驚く程に足音を立てずに近付いてくると、大きな武骨な手がカーテンをさっと避けた。


仄かな明かりに光るブルーの瞳はとても優しげで・・・

・・・そんな瞳で見つめないで。

そんな瞳で見つめられたら、想いがとめられなくなる・・・。

逃げるようにアメジストの瞳を伏せた。



アランの瞳にはベッドの上に身体をもたげている姿はとても儚く映る。

この手でしっかり捕まえておかないと、手の届かない遠くへ黙って行ってしまいそうだ。

ベッドの上に片膝をつき、身体に手を伸ばすと手首を覆っている手が目に入った。辛そうに眉を寄せ、ベッドの上の身体を無言のままスッと抱き上げた。

普段より抱き上げる腕に力がこもってしまう。身体を支える手を強く握ってしまう。

一つだけ灯る燭台近くのソファ。その上に身体をふんわりと下ろした。



―――部屋に入ってから、アラン様はずっと無言のまま。

なんだか少し機嫌が悪そうに見えるのは気のせい?


隣に座ったアランの武骨な手が、リングの嵌められた腕を取ると、ブルーの瞳が冷たい光を宿したまま動かなくなった。


「・・あの、アラン様・・・?」

遠慮がちに声をかけると、ハッとしたように小さな鍵を懐から取り出してリングに差し込んだ。

カチャっと微かな音を立てて開くリング。

か細い手首からそれをそっと外し、忌々しげに見つめると、懐にサッと仕舞った。


エミリーはリングの無くなった手首を不思議そうに見つめた。

少し赤くなっているその肌は、いままでそこにリングがあったことを主張している。

この先消えるまで、この痕を見るたびにあの屋敷で過ごした日々を思い出すのだろう。


あの、怖くて辛くて切ない日々のことを。