シーンと静まり返る部屋の中。


青年の問いかけに答えることなくぼうっとしているエミリー。


射るような光を持っていたブルーの瞳に怒りの影が見え始めた。

寄せられていた眉はますます寄せられ、今にも怒鳴りそうな表情になる。



その様子にハッと我に返ったエミリーはあたふたと言葉を発した。



「ゎ・・・わたしはエミリー・モーガンと申します。書斎の整理をしていたら窓から落ちたんです。そして、気が付いたらここに・・・」



言いながら、改めて今いる部屋を見廻した。


天井は高く豪華なシャンデリアが釣られ、

エミリーの家の部屋3つ分がすっぽり収まるくらいに広い。

壁には絵画がかけられ、豪華な装飾を施された調度品が並べられている。

多分廊下に通じているであろう重厚な扉が一つと

どこに通じているのだろうか、シンプルな扉が2つある。


エミリーのいるベッドは真ん中ほどに置かれていて、

腰高の窓の方には立派なソファとテーブルのセットが置かれていた。


さっきまで青年が座っていた椅子はテラス側にある背の高いひじ掛け椅子だ。

その傍らにもテーブルが一つ置かれていて、何やら書類のようなものと羽根ペンがあり、さっきまで青年がそこで仕事をしていたと思われた。




―――ここは、どこなのかしら・・・。

   わたしはいったいどうしてしまったの―――



思い出すのは落ちていくエミリーに気付いた父親の焦ったような叫び声と視界に揺らぐ堅そうな地面。


一瞬の後全てが闇に包まれ何も見えなくなった。

その後のことは何も思い出すことができない。

気が付いたら草と花の香りの場所にいた。


ここはエミリーの知っている現実とは明らかにかけ離れている。


どちらかと言えば、童話のような・・・中世のような雰囲気を持っているところだ。


どう贔屓目に見ても、ここがイギリスではないことが分かる。



―――わたし、もしかして、家に帰れないの・・・?



自分がこの先どうなるのか。

この鋭い瞳で見つめる青年は誰なのか。



先の見えない恐怖に苛まれ、自分の身体を抱きしめるように腕に力を込めた。