「別荘近くの森を散策している時に
お茶を御馳走してくださいましたの。
嵩愿慶志朗さまとおっしゃってございました」
祐雫の瞳には、避暑地の森の慶志朗が蘇る。
「優祐のことは、晩餐会でご存じとのことでございましたが、
母上さまは、嵩愿さまをご存知でございますか」
慶志朗の顔が蘇ると祐雫の顔は、上気して胸が苦しくなる。
「嵩愿さま……でございましたか」
祐里は、嵩愿慶志朗の壮麗な顔をすぐに思い出した。
嵩愿家は、旧家でかつ経済界においても屈指の家柄だった。
「嵩愿家のご長男でございます。
時々晩餐会にお見えになられますので、
またお目にかかれると存じます」
祐里は、恋煩いの表情の祐雫が愛おしくて抱きしめる。
「まぁ、お目にかかれるのでございますか」
祐雫は、祐里の甘い胸の香りの中で、
久しぶりにこころが嬉々として、瞳を輝かせた。