「梗」
風呂上り、居間で高校生の双子の姉・美琴と真琴に呼び止められた。
「見て見て」
美琴が、数枚の写真を俺に差し出してくる。
面倒だけど、姉の無言の笑顔に諦めてそれを手に取った。
女ばかりの写真を適当に眺めていた俺は、その中の一枚に目が釘付けになった。
真琴が「これ悠」と名前を告げる。

ストレートの黒髪。
伏し目がちの表情。


――可愛い


ふと浮かんだ呟きを、何とか口から出さずに飲み込む。
しかし見れば見る程、ドストライク!
どうやったら会えるか本気で考え始めた時、真琴がいたって普通に問いかけてきた。
「学祭の衣装取りに、今度うちに来るよ。会う?」
その言葉に、内心喜んだのは間違いない







数日後、その日がやってきた!
数着のドレスやウィッグを持った美琴は、居間のソファに座って出し物を嬉々として説明している。
「ミスコン人当てゲームするのー」
ミスコンで人当て? 訳の分からない言葉に首を傾げながら、大人しそうな悠さんを思い浮かべた。

きっと姉達に押し切られたんだろう。


その時、インターホンが来客を告げた。
どくりと鼓動が高鳴る。
真琴が玄関を開けたのか、女性にしては低めの声が聞こえてきた。

来た!

じっと入り口を見つめていた俺の視界に飛び込んできたのは、不機嫌そうな悠さんの姿。
そんな俺に気付いたのか、戸惑うように姉達に視線を向けた。
それを受けて、美琴が口を開く。
「悠、弟の梗」
「……」
何も言わずただ頭を下げるその仕草に、思わず顔が赤くなる。

「梗」

いっ、いよいよだ!

「同じクラスの悠」
同じ様に頭を下げようとした、その時!
今まで黙っていた真琴が、悠さんの髪に手を伸ばした。

「本名、悠斗君でーす」

ばさりと落ちる、悠さんの髪。


……は?


呆けたまま悠さんを見ると、呆れた様に顔を顰めている。
「態々カツラ持ってきたと思ったら。弟で遊ぶなよ」
それは女性にしては低い……いや、普通に男の声。
短い髪に、ぺったんこの胸。
「だって試したかったし!」
「大成功だね!」
姉達がはしゃぎながら広げた紙に、でかでかと書いてあったのは。


<君は気付けるか! たった一人の女装男子!>


え? もしかして人当てゲームって

呆然と悠さんを見ていたら。
「お前のねーちゃんら最強。俺、拒否できなくて、学祭憂鬱なんだけど」

苦笑する顔は、確実に“男”で。



がくり、とテーブルに突っ伏す。
脳裏に浮かぶ、写真の悠さん。
願うように視線を上げた先の、悠斗さんの顔。


「……」


――誰か嘘だと言ってくれぇっ!