「……ただいま」

誰もいない部屋にいつも言ってしまうこの言葉。
いつもなら、これで終わりだった。

「あら、お帰りなさい」

世羅は目の前にいる、“母親”と世間一般的に言われるであろう女を見て、少し目を見開いた。

「なんで、いるの」

「自分の家に帰ってきて何が悪いのよ。まぁ、元気そうでよかったわ」

水無月怜香。正真正銘水無月世羅の母親である。
そして、世羅が一番苦手な人であり、一番好きな人でもある。

「次は、いつ帰ってくるの」

怜香は、モデル・女優と色々やっていたらしいが、今はその経験から会社を立ち上げて社長をやっている。
テレビに出ている、有名な女優や、人気モデルが所属しているそうで、経営は順調なようだ。
ここ数年、家に帰ってくることなんて、1年に10日もあればいいほうだった。