「戦争か、大勢の人が亡くなるんだろうなぁ」
大陸最強の国家はどこか? と質問すれば、多くの人はドナス王国と答えるであろう。少なくともドナス国民はそう信じていた。最北の厳寒の地で、馬と飛龍を駆って細々と遊牧を営んでいた国が、わずか二十年で十ヶ国もの国々を滅ぼし、北陸の大半を制覇してしまった実績がそれを裏付けている。その国是は、大陸の武力による制圧。一つの国家による平和を唱えて、他国に攻め入っている。 近隣諸国は斬り従えるべき存在でしかないのだから、外交も何もあったものではない。隣接したら最後、大義名分も関係なく、侵略してくるのだからまさに最悪の隣人である。 アレックスはそんな王国の王太子として生まれてきた。いずれ戦場に出なければならないということは、生まれもっての宿命といっていいだろう。いよいよ初陣ということになり、その準備のために朝から演習場に出向いたアレックスだったが、ドナス王国の副都たるカーリングの城内に入ったところでおもわすぼやいた。 「心配いりません。どんな敵が来たって殿下には指一本触れさせませんって」
巨大な体型をした青年が陽気に励ました。王太子の親衛隊長のスペンサーである。