叔母が去った後、私は何もせずに廊下に正座したまま人形のように動かなかった。


最初は下手に動かず家の住人から仕事の内容を聞くのが1番効率的だと思う。

かと言って仕事中の人間にいきなりずけずけと物を言っても相手の機嫌を損ねるのが関の山だ。








彼、浅間 霎介(アサマ ソウスケ)は、私がずっと控えていることを知ってか知らずか、ただひたすらにその背中越しに万年筆を動かすカリカリという音を立て続けた。









初対面だとどうしても雇い側は使用人を意識することが多いが、彼は全く気にかける風もない。
確かに、一般とは少し違うのかも知れない。



日が真上近くまで上がってきた頃、浅間は万年筆を置きくぐもった声で伸びをした。
仕事が一段落着いたのだろうか?

私が口を開く前に彼はこちらを見ずに欠伸混じりの声を放って来た。






「播田君、茶を持って来てくれたまえ」

「かしこまりました」



私はすぐにその場から立ち退き静かに台所を探した。
台所は玄関脇にある洗面所のすぐ隣だった。

綺麗にされている、と言うよりはあまり使われていないらしい台所の奥の戸棚にあった緑茶の葉の入った缶とヤカンを取り出し、備え付けの水道から汲んだ水を火にかける。



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