「自覚するのを待つしかないわねー」





霎介さんとなんの話をしたのかはわからないが、蛍さんが一人玄関先で呟いたのが聞こえた。


「お帰りになるんですか?」


私がひょっこり台所から顔を出すと、蛍さんは変な声を上げて振り向いた。



「栞さんそこにいらしたんですね。あーびっくりした。
気配がなかったからお外にいるものとばかり…」


「あらごめんなさい。
昔からよく言われてたんですけど…どうにも直らなくて」

「でも浅間先生の所で働くには都合が良いんではないかしら」






悪戯っぽく言った蛍さんのもっともな言葉に二人して笑った。




「そういえば、栞さんは先生の作品読んだ事がおあり?」


私が首を横に振ると蛍さんは鞄から『思影文學』という雑誌を取り出し、私にくれた。







蛍さんを玄関で見送った後、パラパラとそれをめくると霎介さんの名の載った作品はすぐに見つかった。


『星喰ひと職人』と言う題名の幻想小説のようだった。





すぐ読もうかと思ったが、炊いていた釜がふいているのに気付き私は家事に戻った。






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