「"おや"じゃありませんよ。
原稿、終わりました?」

「勿論」




そういって茶色い封筒を手渡された蛍さんは、中の原稿用紙の枚数を手早く確認すると「確かに」と呟いて丁寧に原稿用紙を封筒に戻し、持って来た薄い鞄にしまう。



お茶を持ってきた私と目が合うと、ニッコリと紅ののった唇を綻ばせた。




「こちらへはいつ頃から?
ええと…栞さん?」

「えっ…?」



苗字しか名乗っていないのに…


そしてすぐに蛍さんは霎介さんに「当たり?当たりですか?」と問う。

霎介さんが頷くと嬉しそうに声をあげ手を叩いた。



「先生がお雇いになるんだもの。絶対文具に関係したお名前だって思ったんです」





どうやら霎介さんの人柄を考慮した上でヤマをはったらしい。



「あぁそれで……ここへ来てからはだいたい半月程になります」


「先生の事で何かわからない事がありましたらなんでも私に聞いて下さいね?
どうせ先生はご自分のことはさっぱりでいらっしゃるから」






依然として反応のない霎介さんを尻目に、蛍さんはコロコロと笑った。






もう少し話しをしたかったが、仕事を放り出すわけにもいかず、私は書斎を後にした。