「播田君、播田君」

「はいはい。どうしました?」

「この本、直しといてくれたまえ」

「はいわかりました」










塞きを切ったように泣いたあの日以来、私は霎介さんに以前より打ち解けた態度で接するようになった。

ある種の人見知りであろうこの癖は例の感情の吐露を原因に霎介さんに対しては瓦解したようだ。




勿論、それに伴って気付いてしまった『あの想い』はやはり遠い耳鳴りのごとく私の思考にちらつくが、気にしないように心掛ける他に手立てはなかった。



破れてしまった本のページをつ、と撫でる。
擦り減って黄ばんだ紙のかさかさした感触が指の先に感じられた。


霎介さんがめくり、ページを繰るうちに残ったものだと考えると、まだ読んだこともないこの論文集さえ愛しく感じてしまう。








ふと顔を上げると、こっちを見ていた霎介さんと目が合う。

彼は机に立てた肘で頭を支えてぼうっとしたままこちらを見る。



「……あの、何か…?」


すぐには答えない。
こういう時は大概、何か自分の思考に埋没している時なのだ。

やがて、ぽつりと彼は呟いた。





「そんな目で君に見られる者は、幸せだろうね」


「……え?」