叔母はひっそりとした廊下をとたとたと早足に私の手を引きながら声をあげて奥の一室の襖の前に座り私も慌ててそれにならう。
叔母が開けた部屋は壁が本棚に覆われ所狭しと本が積まれていた。



その部屋の奥、
午前の日がたっぷりと差し込む窓の下にある机の前にあぐらをかいて座る男の背があった。



「昨日お伺いさせていただいた瀬田ですけどね。
今日からお宅様でご奉仕させていただきます子を連れて参りましたよ」

「はっ播田 栞(ハリタ シオリ)と申します。」



「お見知り置きの程を」と結び手を着いて頭を下げる。鼻先に畳みの草の香りがふわりと感じられた。




先方は振り向く気配もなく変わらずに万年筆を走らせながら「ほう」とだけ返した。








何処か色気のある、落ち着いた若い男の声だった。